Geodesic Forum 2026:AIの進化と日本の存在感の高まりが交差する
Written byMARCUS OTSUJI
Geodesic Forum 2026では、世界を大きく動かす二つの潮流が交差する瞬間を、私たちは目の当たりにしました。一つは、エンタープライズAI技術の急速な成熟。もう一つは、日本がアジア太平洋地域において、最も重要な経済的・地政学的プレゼンスを持つ存在として明確に浮上してきたことです。
この二つのトレンド自体は、決して意外なものではありません。ですが、両者が同時に加速するこの重要なタイミングで重なり合うと、何が起こるのか。私たちはその答えを、2月17日から19日にかけて東京で開催した年次イベントで実感しました。今年のGeodesic Forumには、17社のシリコンバレー企業と、日本企業およそ100社から1,000名を超える参加者が集まりました。
AIに関する所感:2025年 vs 2026年 ― 横断型AIと業界特化型AI
昨年のForumでは、Databricks(データ)、Glean(エンタープライズ検索)、Workato(iPaaSおよびenterprise MCP)など、企業全体で幅広くAI活用を進めるための横断的アプリケーションが紹介の中心でした。
それに対して今年の参加企業は、Roboflow(ビジョン)、Cartesia(音声)、Netradyne(フリート管理)、Arena(ハードウェア設計)、Smack(国家安全保障)など、特定の業界や業務に深く入り込むワークフローや、それを支える中核的な基盤技術に取り組むスタートアップが、近年大きな牽引力を獲得していることを明確に示していました。
つまり、最先端モデルに代表される汎用人工知能は引き続き健在であり、横断的なアプリケーションも今後なおAI導入の基盤であり続ける一方で、深いドメイン知識を持つスタートアップこそが、AIスタックにおけるアプリケーション層と開発者向けツール層の次のイノベーションと成長を牽引しているように見えます。
この業界特化型AIへの深いシフトがもたらす変化は、大きく二つあります。
第一に、NetradyneやArenaのようなターゲット特化型ソリューションが成熟し、業界固有の課題やワークフローにより直接的に応えられるようになることで、企業のAI導入が加速すること。第二に、Vercel、Harness、Roboflow、Cartesiaなどの開発者向けツールが、複雑なアプリケーション開発とデリバリーをさらに自動化することで、企業自身がより高度なデジタル/AIアプリケーションを次々と生み出せるようになることです。この二つが重なり合うことで、日本が長年待ち望んできたデジタルトランスフォーメーションの好循環が、ついに加速していくことになるでしょう。
日本は大谷翔平と山本由伸だけではない
野球とラーメンによって、日本は世界の消費者にとって再び存在感のある国になりました。しかし日本は、それだけではありません。経済面でも地政学面でも、静かに見事な復活を遂げつつあります。
確かに、日本の人口減少やGDP成長の停滞は、引き続きニュースの見出しを占めています。しかし、こうした報道では捉えきれていないのが、日本がこの数十年にわたって、低収益な一般消費者向け電子機器市場から離れ、より上流にある、はるかに収益性と安定性の高いディープテック領域の基盤要素へと軸足を移してきたことです。たとえば、自動車向けマイクロコントローラ、化学、エネルギーインフラ、産業用ロボットなどがその例です。
これらの市場は、シリコンバレーのITスタートアップほどダイナミックではなく、成長スピードも緩やかです。しかし、収益性は非常に高く、しかも破壊されにくい領域でもあります。さらに、高付加価値な製造業に強みを持つ日本は、シリコンバレーの議論が現実世界やフィジカルAIへと移っていく中で、非常に有利なポジションに立てる可能性があります。
日本の存在感の高まり、再び
地政学的に見ると、日本は2000年代から2010年代の大半において、比較的目立たない存在でした。信頼できる同盟国ではあったものの、中国の台頭、その経済力、そして経済的な統合が地政学的な統合にもつながるのではないかという期待の陰で、日本の存在感は相対的に薄れていたのです。
しかし今や、中国が今後も地政学的な競争相手であり続けることは疑いようがありません。そうした中で、アジアにおける稀有な民主主義国家であり、資本主義経済を体現する日本の存在は、この地域の平和と安定を支える戦略的な防波堤となっています。
しかもこれは、日本が経済面で復調しつつあるタイミングと重なって起きているだけでなく、高い支持を集める高市早苗首相のもとで、日本が軍事面でもより大きな役割を担おうとする新たな政治的意思が生まれつつあるように見えます。前政権である岸田政権下では、すでに日本は防衛予算を倍増する方針を決定しており、その予算を活用して軍事力の近代化と拡張を進めています。
当然ながら、米国との相互運用性の確保は重要な優先課題になるでしょう。その意味で、防衛テックや宇宙関連、またその周辺領域に属する革新的なスタートアップにとって、日本は、しっかりと取り組む意思さえあれば十分に探求する価値のある大きな機会を持つ市場だと言えます。
Forum:AIの進化と日本の復活が交差した場
AIの進化と、日本の再浮上。この二つが重なり合ったことで、今年のForumはとりわけ特別なものとなりました。もちろん、私たちは毎年そう言っていますし、毎年それは事実です。ただ今年は、日本もAIも、いずれも一つの転換点を越えつつあるように感じられました。いわば両者とも「キャズムを越えた」段階に入り、日本企業とシリコンバレーが、これまでにない形で互いを受け入れ始めています。
もちろん、その先にある大きな可能性を実際の成果へと結びつけるには、双方でなお取り組むべきことがあります。それでも今は、技術・経済・地政学という強い潮流が、かつてないほど同じ方向へと収束し、以前にも増して強いアラインメントを生み出しています。そうした力の集まりは、Forum全体を通して感じられた熱気の中にも、はっきりと表れていました。
Geodesic Forum 主なプログラム
1. Tech Conference & Nekworking Reception(2月17日)
フラッグシップイベントであるTech Conferenceには、500名が集まり、Geodesicの創業者たち、そして10社のシリコンバレー・スタートアップの話に耳を傾けました。

カンファレンス 登壇セッション
登壇したのは、9名のCEOを含む10社のスタートアップです。トピックは、リアルタイムの音声認識および音声合成AI(Cartesia)、ハードウェアおよび電子設計向けAI(Arena)、国家防衛向けAI(Smack)、次世代宇宙ステーション(VAST)、サイバーセキュリティ(Island)など、多岐にわたりました。分野を横断して、シリコンバレー最前線のイノベーションが今どこで起きているのかを見渡せる、非常に示唆に富んだ内容でした。

ネットワーキングレセプション
ネットワーキングレセプションでは、旧知の方との再会も、新たな出会いも数多く生まれました。シリコンバレー企業の各テーブルでは、技術面・事業面の双方で非常に多くの議論が交わされ、会場は大いに盛り上がりました。

2. One on One Meetings(2月17日〜18日)
One on One Meetingsは、毎年Forumの定番企画ですが、今年は過去最多のリクエストが寄せられ、最終的に実施されたミーティング数は145件にのぼり、55社の日本企業が参加しました。

3. Developer Lab(2月18日)
Developer Labでは、開発者がより深く技術に入り込めるよう、開発者向け色の強い6社「Roboflow、Cartesia、Harness、Clickhouse、TinyFish、Vercel」とともに、開発者に特化したイベントを実施し、3社の日本の顧客企業「株式会社デジタルガレージ(TinyFish)、株式会社システムズナカシマ(Roboflow)、株式会社ROUTE06(Vercel)」が登壇をし、事例を紹介しました。
今回が2回目のDeveloper Labでしたが、日本の大企業・スタートアップの双方にとって開発者生産性が引き続き重要な優先課題である中、デモブースでは非常に活発で熱量の高い対話が交わされていたのが印象的でした。

4. VIP Reception(特別ゲスト:Yoshiki)
今年のVIP Receptionは、皇居を望むSalesforce Tower Tokyoで開催されました。日本の企業関係者に加え、国や地方自治体からも多くの方々にご参加いただき、大変光栄でした。そして今年最大のハイライトは、国際的ロックスターであり、Geodesic創業パートナー John Roosの友人でもあるYoshikiさんのご参加でした。美しいライブパフォーマンスで、会場に大きな感動をもたらしてくれました。

5. Alliance Fund / NFocus Fund の参加
新たに立ち上げたAlliance FundおよびNFocus FundもForumに参加しました。これらのファンドは、半導体、宇宙、ロボティクス、国家防衛といったディープテック領域を主な対象としており、Forum全体にさらなる広がりと厚みをもたらしました。
Alliance Fundチームは、初のDeeptech Luncheonにおいて、Forum参加企業であるSmackとVastに加え、Portal Space、Planetも紹介しました。Geodesic Alliance Fundの投資家であるTom GillespieとRayfe Gaspar-Asaokaは、各社のリーダーとの対話を通じて、国家安全保障および宇宙分野における重要なデュアルユースの論点を掘り下げました。さらに、米国政府・日本政府の双方のシニア代表者による特別コメントも加わり、午後のセッションは、多くの示唆とネットワーキングの機会に満ちたものとなりました。

6. Winning in Japan
毎年恒例の「Winning in Japan」セッションでは、過去2日間で得た学びや経験、新たな関係性を、各社のエグゼクティブにとって一貫した日本進出・成長戦略へとつなげていくための議論を行いました。今年は特別ゲストとして、Microsoft Japan社長の津坂 美樹氏、FigmaのCountry Managerである川延 浩彰氏、エグゼクティブサーチ企業Scale Insightの創業者兼社長であるAndrew Nimmer氏、そしてJETROのEd Ramsey氏をお迎えしました。さらに、GeodesicのSenior AdvisorであるJames Kondo氏、私自身(Geodesic Japan カントリーマネージャー Marcus Otsuji)、そしてGeodesicチームも加わり、非常に活発な対話が繰り広げられました。

まとめ
Geodesic Forum 2026は、ミーティング、カンファレンス、ハンズオンラボ、ネットワーキング、そして途切れることのない学びに満ちた、濃密で刺激的な3日間となりました。Geodesicのミッションはこれまでも一貫して、グローバルテクノロジー業界と日本のあいだに存在する無限の可能性を引き出すことにあります。そのために私たちは、太平洋の両側にいる意思決定者、オピニオンリーダー、イノベーターが出会い、協業の機会を探ることのできる場を提供してきました。創業11年目を迎えた今、このミッションの重要性はこれまで以上に高まっています。Forumで新たに芽生えた数多くの関係性が、今後さらに発展していくよう、私たちも引き続き支援していきたいと考えています。
参加したシリコンバレー企業一覧
- Arena:エレクトロニクスおよびハードウェア開発向けAI
- Cartesia:リアルタイム音声AI
- Clickhouse:リアルタイム・データウェアハウス
- Distyl:AIネイティブなシステムインテグレーション
- Exein:組み込み機器向けIoTセキュリティ
- Harness:DevOps向けAI
- Island:AIを活用したセキュアなエンタープライズブラウザ
- Modular:統合AI推論プラットフォーム
- Netradyne:AIによる車両管理・安全対策
- Parallel:AIエージェント向けWeb検索・リサーチAPI
- Roboflow:開発者向けコンピュータビジョン・ツール
- Smack Technologies:国家安全保障向けフロンティアラボ
- Tanium:統合IT運用・セキュリティプラットフォーム
- TinyFish:エンタープライズ検索エージェント
- Treiner:産業用ロボティクス向けPhysical AI
- Vast:次世代宇宙ステーション
- Vercel:The AI Cloud
日本にお越しいただくために貴重な時間を割いてくださり、Geodesic Forum 2026をこれほど印象深いイベントにしてくださった各社の皆さまに、心より感謝いたします。あわせて、ご参加・ご協力くださったコミュニティの皆さまにも深く御礼申し上げます。
また近いうちに、皆さまとお会いできることを楽しみにしています。