コロナ禍のモビリティ: 新たな時代の移動ソリューション

Written by
Katherine Walker

今年(2020年)4月、私は「Mobility During COVID-19 and the Corresponding Environmental Impact (コロナ禍のモビリティと環境への影響)」と題したブログ記事を書いた。その記事に続き、ここではモビリティ、気候変動、およびテクノロジーがどのように影響しあうのかについて掘り下げていく。

新型コロナウイルス(COVID-19)の状況が悪化した3月以降、自動車や徒歩などの移動手段(モビリティ)が見直され、公共交通機関の利用者数は著しく落ち込んだままになっている。人々は可能な限りリモートワークを続け、コロナウイルスの感染を恐れて公共の場を避けている。そのような状況で、どのようなテクノロジー ソリューションが急成長しているのだろうか、またそのようなソリューションを使えば人々を結びつけることができるだろうか。より具体的に言えば、人々の健康を確保しつつ地球にやさしい交流はどのようなものになるのだろうか。私は無類の自転車好きであり、特にVanMoofCowboyDanceなどの電動アシスト自転車によるマイクロモビリティの発展や、Glydways、 Hytch RewardsStreetlight Dataなどのスマートシティ移動ソリューションの開発を楽しみにしている。そして、このコロナ危機を契機に、より良い未来に進んでいくことを期待している。

Montauk Triのコピー

【写真上】2018年夏、ニューヨークで開催されたトライアスロンに参加

世界が直面しているのは、気候変動と経済成長の二者択一ではない。
今世紀最悪の医療危機 と最大の経済的打撃への各国の対応を振り返るとき、未来の世代の目に何が映るだろうか。
古い考えに固執して、衰退していく過去のテクノロジーを守ろうとするリーダーだろうか。あるいは、より良いスマートな未来を作る好機と捉え、壊滅的な危機をターニングポイントに変えるリーダーの姿だろうか。
マイケル・ブルームバーグ(Michael Bloomberg)(2020年6月9日)

アメリカ国民にとって自動車文化とは、長きにわたって自由のシンボルであり、アメリカンドリームそのものであった。私も例外ではない。生まれつき好奇心旺盛な私は、新しい場所を訪れ、その地域の歴史を学ぶことが大好きだった。これまで35以上の州に赴いたが、そのうち25近くの州へは、ハイウェイ1号線からルート66とブルーリッジ・パークウェイを通って車で訪れている。

国際的な移動制限が敷かれている今、車を使った国内旅行は魅力的な代替案となっているが、私としては自転車で動き回ることを好んでいる。一見シンプルな発明品に見える自転車だが、想像を超えた歴史的背景がある。

スタンフォード大学の学生だった私は、ロバート・マギン(Robert McGinn)教授の科学技術社会論(STS)の講義で、初めてウィーベ・バイカー(Wiebe Bijker)の著書、「Of Bicycles, Bakelites, and Bulbs: Toward a Theory of Sociotechnical Change(自転車、フェノール樹脂、および電球: 社会技術変革の理論に向けて)」を読んだ。これは、現代の自転車につながる社会技術的要因を探った本である。1880年代、当時の技術発展により、自転車は巨大だった前輪が小さくなり、後輪を駆動するチェーンや空気入りタイヤなどが作られた(下図参照)。さらにそれが、ヴィクトリア時代の女性の意識改革(短いズボンを履いたり、一人旅をする女性もいた!)に後押しされた結果、男女問わずあらゆる世代が自転車を利用するという新しい習慣が広く受け入れられるようになった。

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(写真参照元)https://en.wikipedia.org/wiki/Safety_bicycle

そして200年以上が過ぎた今、コロナ禍の重要な交通手段として再び自転車が注目されている。新型コロナウイルスの感染が最初に広がった2020年3月、アメリカでは自転車の売り上げが跳ね上がり、レジャー用が121%増、通勤用とフィットネス用が66%増となった。加えてフィットネスバイクのPeloton社の売上が急増した。第3四半期はバイクの購入者が前年比94%増、アプリ登録者は前年比64%増であった。

自転車を利用する、また利用を見直す動きは世界中で起きている。ヨーロッパでは、ミラノやパリなど、新型コロナウイルスが最初に大流行した都市で、自転車専用レーンが追加され、ロックダウン(都市封鎖)の間、ソーシャルディスタンスを保った移動や娯楽としての自転車の利用に貢献した。ミラノでは「Strade Aperte(日本語訳 オープン・ロード)」イニシアチブによって、35キロにおよぶ道路で自転車専用道路と歩道が増設のため車道が封鎖された。パリ周辺では行政によって、コロナ サイクルウェイ(corona cycleways)と呼ばれる650キロにわたる自転車道路網が整備される予定だ。また、コロンビアのボゴタ、メキシコ・シティ、ニューヨークなど世界各地の都市でも同様のプランを検討している。

このようなイニシアチブで特に興味深いのは、都市の封鎖が解かれたあとも、政府が車を排除して、大気汚染を減らそうとしていることだ。アメリカの温室効果ガス排出の最大の要因は移動なのだが、私たちには今、持続可能で永続的なモビリティの未来を再考するという、またとないチャンスが訪れている。

経済活動と人の移動が急停止したことで、二酸化炭素(CO2)の年間削減量が過去最大になる可能性が高まっている。米国エネルギー情報局は、2020年のアメリカのエネルギー関連の二酸化炭素排出量が10%減少すると予測している。これは2019年の減少幅である2.8%の3倍以上の数値となっている。

しかし景気後退のあとには、経済の活性化に向けて産業活動が増加することが多い。たとえば、2009年に起きたアメリカの金融危機では、CO2排出量が1.4%減少した後、翌年には5.1%の増加に転じた(出典)。2021年に、前回と同じ状況になる可能性は否定できない。

Geodesicのポートフォリオの中でもUberのような企業は、新しい環境に適応する措置を講じている。UberのCEO、ダラ・コスロシャヒ(Dara Khosrowshahi)氏は先日、Uberの取り組みとして、2040年までに移動による二酸化炭素排出量ゼロを100%達成することと、Uber Green Rewardプログラムを拡大することを発表した。また、Uberは最近Routematch社を買収しており、地域の交通機関との結びつきを強化している。現在、カリフォルニア州マリン郡では、UberアプリのユーザーはMarin Transitのオンデマンド配車サービス、Marin Connectを利用でき、地域の交通拠点までのUberの乗車が割引される。全体的な目標は、都市部の交通の接続性を高め、公共交通網の利用促進につなげることにある。

Uberの新たな公共交通機関とのパートナーシップは、人々が再度公共交通を利用することを促している。人々が自宅で仕事を始め、新型コロナウイルスへの感染を防ごうとしていることで、交通機関の利用は急激に減少した。車の利用や徒歩といった他の移動手段は新型コロナウイルス以前の水準に戻っているものの、アメリカの交通機関の利用者数は落ち込んだままだ。カリフォルニア州の通勤電車、カルトレイン(Caltrain)の場合、平日の利用者数は、1日平均で65,000人であったが、1,500人にまで減少した。

これとは対照的に、東京とパリの交通機関の利用者数は新型コロナウイルス以前の水準に戻っている。Geodesic Japanの同僚によると、マスクを着用したり、車内で会話をしないなどの慣習があったおかげで、ある意味有名な日本の満員電車においてもそれほど感染は広まらず、再度乗客が戻ってきたのではないかということだ。

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自動車、自転車、スクーターなどの個人向けの移動手段は、公共交通機関の代替として安全に利用できる。KPMG のレポートによると、昨今のコロナ禍での自動車購入の増加や価格の急騰にもかかわらず、長期的には、車の走行距離がパンデミック以前の水準を9%下回ると予想している。これは、1,400万台の車を削減したに等しい。ニューヨーク市のビル・デブラシオ市長も車は過去の遺物だとして、市民に車を購入しないよう呼びかけている。それでは、今後我々はどうしたらよいのか。車に代わる可能性を秘めた移動手段とは何か。私は、モビリティと気候変動という2つの危機をテクノロジーが解決できると前向きに考えている。それでは、私のお気に入りのアイデアをいくつか紹介しよう。

電動自転車によるソリューション
VanMoofは、約100億ドル(1兆円)の市場規模であるe-bike分野の先駆者の一社であり、サプライチェーン、流通、メンテナンス全体を垂直型の組織形態にすることで差別化を図っている。Cowboyはバッテリーの寿命を延ばし、Danceはe-bikeのサブスクリプションサービスを提供することで、消費者に使いやすさをアピールしている。この分野は、毎年25%の成長が見込まれており、2026年までに市場規模が460億ドル(4兆6000億円)に達すると予想され、アジア太平洋地域のシェアが全世界の85%を占めるとも推測されている。

移動機関のソリューション
固定された軌道に沿って自律型の小型電動車両を運行させるGlydwaysは、自動車の必要性を劇的に減らし、二酸化炭素の排出量を削減にする大量移動ソリューションとしての可能性を秘めているとして、ビノッド・コースラ(Vinod Khosla)氏から高い評価を受けている。Hytch Rewardsは、二酸化炭素を排出しない方法での通勤を奨励するサービスを提供し、そのインセンティブをキャッシュで付与することで、走行する車の数を削減することを目的とし、Glydways社と提携している。

一方、StreetLight Dataは、よりスマートな都市インフラを設計するためのモビリティデータを政府や企業のリーダーに提供し、人々がどのように移動するかという予測にチャレンジしている。 同社のデータでは、交通機関の利用から自転車の利用への大転換があることが示唆されている。このような情報は、前述したミラノのStrade Aperte イニシアチブのような公共スペースの利用法を決定する場合などに、政府の運輸機関にとって有益に使用される。Strava Metroもまた、都市部のモビリティを発展させるため、データを無償で提供している。

私たちは今、前例のない転換期にいる。これまでの状況が一変し、政府、企業、社会が積極的に協力して、より良い結果を出そうと模索している。社会技術的要因が収束し進化している現状は、今にもモビリティの地殻変動を起こすことになるだろう。それは、起業家やベンチャー投資家にとって極めて重要で注目すべきことであると私は考える。そして今、我々が経験しているこの瞬間を、未来の学生たちが科学技術社会論(STS)の講義で学ぶことになるだろう。

結びとして私から皆さまへの質問をここに残したい。 新たに車を購入することを検討しているか、会議に出席するために車を使う予定ならば、しまってあった自転車のホコリを払ったり、最先端のモビリティ スタートアップの製品を検討してはどうだろうか。(カリフォルニア州の山火事に関連し、)今やサンフランシスコのベイエリアの空気はきれいになっている。ぜひ、皆さんと共に自転車に乗りながら、モビリティの未来について語り合い、2021年以降の素晴らしい未来を改めて想像してみたい。

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