テクノロジー業界の動向:山あり谷ありの一年を経て
Written byJON REZNECK
この1年の変化
まずは、約12か月前にさかのぼってみましょう。
1年前の2023年2月に私たちがGeodesic Forumに集まったとき、連邦準備制度理事会(FRB)はゼロに近い金利から450ベーシスポイントの利上げに踏み切ったばかりでした。その結果、VCの活動は著しく低下し、M&AおよびIPOなどのイグジット市場は事実上閉鎖され、NASDAQはその時点で約25%下落しました。
同じく2023年2月には、数か月前に登場したばかりのChatGPTが、Forum開催時には10億近いアクセスを記録していました。イベントを終えて家に帰ると、シリコンバレーバンクが破綻、ファースト・リパブリック・バンクもそれに続きました。
これにより、多くのリミテッドパートナー(LP)が次のような疑問を抱きました。
- シリコンバレーで信用収縮が起きるのか?米国ではどうなのか?
- VCはどうなるのか?
- スタートアップは失敗するのか?VCファームはどうなる?
- これはシリコンバレーの終焉なのか?
これは1年前の話ですが……状況は変化しています。それでは現状はどうでしょうか?
2023年にシリコンバレーの投資活動はさらに落ち込みましたが、実際には2020年の水準にとどまっており、さらに長期的な視点でみた場合には、10年前の平均水準を上回っています。つまり、私たちは正常なレベルで安定しており、むしろ2021年の方が異常だったのです。
NASDAQも暴落前の水準に戻っています。実質的には、2022年の2月から3月の状態に戻っているのです。
生成AIへの投資状況と影響
さて、ChatGPTに話を戻しましょう。2023年のForumで注目を浴びたそのエコシステムは、より大きなものへと成長しました。2023年、ベンチャーキャピタルによる生成AIへの投資は200億ドル(約3兆円)を超えました。AIと機械学習分野全体への投資も前年比で600億ドル(約9兆円)以上増加し、その勢いは衰えていません。
OpenAIが1000億ドルのバリュエーションで資金調達を行うという話もあり、また、Anthropicや(Forumにも参加した)Cohereも同様に資金調達を行うと言われています。これには、AIチップに投じられる1億ドルや、サム・アルトマン氏がAIチップのために調達しようとしている1兆ドルの資金は含まれていません。
これはプライベート・マーケットだけでなく、公開市場にも影響を与えています。今日では、2兆ドルや3兆ドルの時価総額を持つ企業が新たな基準となっています。現在、ほぼすべての大手テック企業が、1年前と比べて50%〜200%も規模を拡大しているのです。
そして、その影響は経済だけにとどまらず、社会全体に及んでいます。Getty Imagesによると、過去12か月間にAIで生成された画像の数は、写真の歴史の中でレンズを使って撮影されたすべての写真よりも多いそうです。今年(2024年)のダボス会議で、AIは4つのテーマの1つであり、24以上のセッションがAIに焦点を当てていました。米国ではすでにFTCが、生成AIのスタートアップと大手テック企業との提携を検討しています。日本では、芥川賞を受賞した『東京都同情塔』のごく一部がChatGPTで作成されたことが論争を引き起こしました。これは市場や経済だけの問題ではなく、多くの分野で社会に影響を及ぼしています。
テック業界の広がりとその他注目分野
テクノロジー分野においては、20年サイクルでまったく新しい技術スタックが登場するという話があります。ハードウェア層からクラウド、データ、基盤モデル、ツール、アプリケーションに至るまで、あらゆる新しいソリューションが構築され始めています。
まったく新しい語彙も登場しています。現在では、LLM、トランスフォーマー、パラメーター、検索拡張生成(RAG)、推論、マルチモーダル、H100などの用語が広く知られるようになりました。GPUチップ不足の話題は、シリコンバレーのカフェだけでなく、あちこちで聞かれるようになりました。
しかし、生成AIだけでなく、気候技術や防衛、セキュリティのようなフロンティア技術分野でも同様のことが起きています。防衛・セキュリティ技術などの分野に目を向けると、米国では2023年に300億ドル(約4兆5000億円)近くが投資され、過去3年間では1000億ドル(約15兆円)以上が投資されました。気候変動・クリーンテック分野では、2023年に世界全体で300億ドル(約4兆5000億円)の投資が行われ、過去数年間では1400億ドル(約21兆円)以上が投資されています。
もちろん、すべてが順調というわけではありません。
上述のように、少なくとも米国では経済成長は依然として力強く、失業率も低く、公開市場の回復が見られます。しかし、インフレや、FRBがそれを制圧したかどうかについての懸念が残ります。金利についても疑問が残ります。この高金利がまだ長く続くのか、上昇するのか、下降するのか、2回の利下げか、6回の利下げか、まだ先行きは不透明です。ベンチャーキャピタルにとっては、IPOやM&Aの市場が開かれることが必要不可欠です(そうなれば、LPにもっと多くの資金を還元できるでしょう)。
地政学的には、世界のいくつかの地域で比喩的に、あるいは文字通りに火の手が上がっています。米国では11月に選挙が控えており、現在は多くの不確実性があります。
以上をふまえ、本題である「テック業界の現状」に戻りましょう。
テック業界の現状に関する3つのポイント
まず、シリコンバレーは依然として活気に満ちており、地域自体だけでなく、より広い意味における、起業活動のコンセプトとしても健在です。2023年、米国は全世界のベンチャーキャピタル投資の50%以上を占め、そのうち約40%がシリコンバレーに集中していました。これは中国のベンチャーキャピタル投資のほぼ2倍にあたります。
次に、私たちは技術革新において、非常にエキサイティングな時代の中にいます。生成AIだけではありません。防衛やセキュリティ技術、気候変動技術、サプライチェーン、そしてフィンテックのような分野など、テクノロジー・フロンティア全体に大きな可能性が広がっています。
そして最後に、私たちベンチャーキャピタルにとっても、今は素晴らしい時代です。ドライパウダー(待機資金)は3000億ドル(約45兆円)以上あり、2021年よりも環境が整っています。起業家たちは次々と画期的な企業を立ち上げており、このような不確実な時代にこそ、最高の企業が生まれることを私たちは知っています。Geodesic Forumでは、今後も革新的な技術への投資を継続し、業界のリーダーをお招きすることを楽しみにしています。
*ドルから円への換算は1ドル=150円で計算しています(2024年4月時点)。