拡張分析:未来を構築するデータ活用
さまざまな企業でデータ活用の重要性が叫ばれる中、誰もがデータを活用できるようにする「データの民主化」に向けた動きが進んでいます。ただし、単に過去のデータを振り返るだけでなく、深いインサイトを得て新たなアイデアに結びつくようなデータ活用ができている企業はあまり多くありません。
こうした状況を踏まえ、検索という新たなスタイルによるデータ活用を推進しているのがThoughtSpotです。同社にてマーケティング責任者を務める小坂哲也氏が、これからのデータ活用のあり方を語ります。
※この記事は、小坂氏へのインタビュー動画をまとめ、一部加筆したものです。
日本企業のデータ活用の現状
一般的に「日本はデジタルトランスフォーメーション(DX)がアメリカより10年以上遅れている」と言われることがありますが、実際には日本でもデータをうまく活用してDXに結びつけている企業は存在します。一方、データ収集やデータ管理さえこれからだというところもいまだ多く、企業によって取り組みの差は大きいといえるでしょう。
データ活用のツールとしては、BI(ビジネスインテリジェンス)やそのダッシュボードを利用している企業も多いと思います。ダッシュボードは、定期的に業績などを確認するために利用するのであれば、十分価値のあるツールです。
ただし、ダッシュボードはデータ確認という粋を超えておらず、そこから得られるデータも粗く中途半端です。そのため、ダッシュボードで新規ビジネスのアイデアが浮かんだり、深掘りして重要なインサイトを得たりすることは難しいでしょう。目標が達成できなかった原因を突き止めたいと思っても、ダッシュボードではそこまで対応できないのです。
BIツールの仕組みと課題
これまでのBIツールにおけるデータの流れは、売上などの企業データをデータウェアハウスやデータレイクに集約し、分析・集計後にレポートやダッシュボードに形成する、というものでした。その成果物は、情報システム部門やデータ分析担当者らが各部署のニーズに沿って作成したものです。
別の切り口のレポートが必要な場合は、その都度データ分析担当者に追加の作業が発生し、これにはコストがかかり、現場も新たなデータが出てくるまで待たなくてはなりません。データを求めている人の数に対し、データ専門家の数が圧倒的に少ないのが現状で、これは世界的な課題となっています。
ThoughtSpotによるデータ活用スタイルとは
ThoughtSpotでは、これまでとは全く異なるデータ活用法を提案しています。データ専門家から提供されるデータを受け取るだけだった現場の人たちが、自らシステムにアクセスして必要なデータを入手するという能動的な手法です。これにより、データ専門家の人数にとらわれることなく、必要に応じて現場で自由にデータが活用できるようになります。
それを実現するのが、検索をベースとしたデータ活用です。誰もが日々行っている検索という行動を、企業のデータ活用にも取り入れることで、現場担当者が自ら必要なデータを瞬時に入手できるようにし、データドリブンな行動に移せるようにする——これがThoughtSpotの提案する新たなデータ活用のスタイルです(その後、大規模言語モデル(LLM)による検索にも対応しています)。
この手法が浸透すると、データ活用のスピードが速まります。疑問があれば、その場で検索して答えにたどり着くのですから、まさに思考と同じ速さで疑問点がクリアになります。新たなビジネスアイデアのヒントも誕生するかもしれません。
ただし、ツールを導入するだけでデータ活用が自動的に実現するわけではありません。ツールの導入にあわせ、活用を推進する取り組みも必要です。
例えば、より現場に権限を持たせることも重要ですし、現場での意思決定プロセスをマネージャーが邪魔しないよう気をつける必要もあります。また、「DX推進部」といった部署を立ち上げ、現場でのデータ活用をファシリテーションしていく方法もあると思います。さらには、こうした取り組みを経営層がサポートし、メッセージを出していくことも重要です。
拡張分析による能動的なデータ活用の世界
最近、分析手法のひとつとして「拡張分析」という仕組みが注目されるようになってきました。拡張分析とは「データ活用やデータ分析に、機械学習やAIなどのシステムを取り入れる方法」です。これにより、売上データを見ているだけではわからなかった相関関係を、AIが気づかせてくれることもありますし、異常値や傾向、データの持つ特性も、システムが教えてくれるかもしれません。その新たな気づきをさらに掘り下げていくといったように、データと対話をしながら本当に必要なインサイトにたどり着くといった流れが、拡張分析というトレンドとして注目されています。
拡張分析機能を持ったツールが発展していくと、ダッシュボードが廃れてしまうようにも思えますが、それは使い方次第といえるでしょう。特に、経営層や各事業のトップマネジメント層などは、KPIなど特定の指標を定期的に確認する必要があるため、そういった一部の人にはダッシュボードが今後も役立つと思います。
一方で、現場で意思決定を行う人であれば、自ら必要な情報を得られる拡張分析のようなツールの方が合っているでしょう。つまり、ダッシュボードと拡張分析を適材適所で組み合わせ、ハイブリッドで使うといいのではないでしょうか。今後は固定化されたダッシュボードの構成要素が、必要に応じて入れ替わるような仕組みも出てくるかもしれません。
ThoughtSpotを導入する企業とは
ThoughtSpotのユーザー企業には、製造業や小売業などが多い傾向にあります。こうした業界は取り扱うアイテム数が多く、拡張分析によるデータ活用が非常に役立っているようです。
また、IT企業でも、データを自社のビジネスソリューションの付加価値と位置づけている企業などがThoughtSpotを採用しています。ほかにも、データドリブン経営に取り組み、企業全体でデータ活用に取り組んでいる先進的な企業で導入が進んでいます。
ThoughtSpotはクラウドネイティブなアーキテクチャのため、他のクラウドシステムと連携してサービスを展開する企業が多いのも特徴です。データ活用のみならず、今後中長期にわたってDXを推進するプラットフォームとしてThoughtSpotを採用しているケースが多いようです。
これまでデータは、過去の状況を把握する歴史づくりとして位置づけられる傾向にありました。歴史を学ぶことは重要ですが、これまでと異なる新たなチャレンジをするにあたっては、データと対話しながら全員で取り組んでいくことが求められます。それがデータの民主化であり、これからのデータ活用のあるべき姿といえるでしょう。