最高の技術力 ≠ 最高のビジネス 課題はユーザーエクスペリエンスにある

Written by
MARCUS OTSUJI

日本は常に最高の技術を持っていますが、常に最高のビジネスがあるわけではありません。その問題はユーザーエクスペリエンスにありました。

「まず、カスタマー・エクスペリエンス(顧客体験)から始めて、それに必要なテクノロジーを考えます。その逆ではないのです。」

これは、スティーブ・ジョブズが言った有名な言葉です。

もちろんジョブズもテクノロジーが大好きで、熱心に研究していましたが、製品をデザインするときは、常にユーザー体験を優先していました。 

デジタルの世界における日本にとっての脅威とチャンス

日本は、多くの重要な産業において、高度な技術製品を供給するエンジニアリング大国です。その範囲は、スマートフォンのイメージセンサー、航空機のジェットエンジン、グローバルなファウンダリの半導体製造装置、自動車OEMのマイクロコントローラー、世界中の製造業用の産業ロボット、エネルギーインフラなど多岐に渡ります。こういった中核的で非常に複雑な分野への貢献により、日本はグローバル・サプライ・チェーンにおいて重要な役割を担っています。 

しかし、日本の課題はデジタルです。  誰もが知っているように、今日、世界で最も急速に成長し、最も価値のある市場はデジタルです。  より多くの顧客とのやりとり、コミュニケーション、商取引、エンターテイメント消費、学習、イノベーション、創造が日々デジタル上で起こっており、AIによってこの流れはさらに加速しています。   

そしてこのデジタルの世界では、日本は少し(もしかしたらかなり)遅れています。

2023年のIMD世界デジタル競争力ランキングで、日本はカタール、サウジアラビア、スペインに次ぐ32位に位置しています。

これはある部分では技術の問題ですが、それ以上に重要なのは、ユーザー体験へのフォーカスと、グローバルな消費者のデザイン嗜好を理解することにあります(以前、それについて詳しく記事を書きました)。

近年の最大の例はスマートフォンです。  2000年代初頭、iPhoneやAndroidが登場する以前、日本の携帯電話は世界で最も進んでいました。  欧米の携帯電話がまだ電話をかけるだけのものだった時代に、日本では携帯電話で、写真を撮ったり、本やニュースを読んだり、メールを送ったり、コンサートのチケットを買ったり、ゲームをしたりすることが一般的であったことに驚き、そのことについて記事を書くために、世界中の技術愛好家たちはよく日本を訪れていました。  しかし、日本の携帯電話が海外で普及することはなく、iPhoneが発売されると、日本を含む世界のスマートフォン市場を席巻しました。それは、Appleの技術が優れていたからではなく、素晴らしいユーザー体験を提供していたからです。iPhoneの規模が大きくなるにつれ、Appleの研究開発への投資も増え、iPhoneの技術が世界一になるのに時間はかかりませんでした。そこからもAppleは挑戦を続けています。

もちろん、過去数十年にわたり、日本企業はウェブサイトや最近ではモバイルアプリの構築という、明らかに基本的に必要なことを行ってきました。しかし、日本には非常に優秀な個人デザイナーやエージェンシーが数多く存在するにもかかわらず、日本企業や日本という国は、組織レベルのUI/UX能力において大きく遅れをとっています。  これは、デジタルの世界とその重要性の高まりだけを考えても問題です。しかし、おそらく日本にとって最大の脅威(そしてチャンス)は、デジタルと物理的世界の融合にあります。自動車の自律走行、自己学習する産業用ロボット、製造業におけるIoT、デジタルホームなどです。  このトレンドは、日本のメーカーに大きなチャンスをもたらすと同時に、大きな脅威でもあります。

UI/UX分野のカテゴリーリーダー3社

シリコンバレーにおいて、UI/UXソフトウェア市場は、最もホットな成長分野のひとつです。  デジタル体験がよりミッションクリティカルなものなり、デジタルの変革がより大きな価値を生み出し、生成AIと自然言語によるインターフェイスがユーザー体験に新たな期待をもたらす中、デジタル体験とユーザーインターフェイスの設計、開発、最適化を支援するソフトウェアは、あらゆる企業のデジタルトランスフォーメーション・ソフトウェア・スタックの中核となりつつあります。 

Geodesic Capitalでは、最も注目されているUI/UX関連のソフトウェアスタートアップ企業3社に投資し、その日本市場進出を支援できることを光栄に思っています。  Figma、Vercel、Pendoの3社は、世界的に大きな規模と成長レベルに達しており、日本でもアーリーアダプターが彼らの技術を使い始めています。そして重要なポイントは、彼らのUI/UXのベストプラクティスを採用することで、急速に成長しているのです。   Figma、Vercel、Pendoは、デザイナー(Figma)、開発者(Vercel)、プロダクトマネージャー(Pendo)という、UI/UXの運用に最も重要な3つのペルソナのためにつくられました。しかし、各社の製品の開発が進むにつれ、それぞれのワークフローにおけるカバー範囲が広がりつつあることから、その領域やペルソナに重なりも見えてきています。この優れた3社について、そして彼らが、現代の UI/UX デザインのワークフローにおける3つの部分(デザイン、開発、最適化)に、どのように組み込まれているかについて、少しご紹介します。Figma(デザインとプロトタイピング):  Figmaは、UI/UXデザインとプロトタイピング・ソフトウェアの世界的リーダーです。  そのため、ウェブサイトやモバイルアプリ、その他あらゆるデジタル画面で表現する優れたユーザー・インターフェイスを、デザイナーが作成するのに役立つ高度な機能を備えています。ですが、それだけではありません。Figmaは、小規模のデジタルネイティブ企業から、大規模な非デジタルで多国籍のコングロマリット企業、そしてその中間に位置する企業まで、現代の多種多様な組織のために開発されました。

会社の規模に関わらず、今日のデザインの性質は、ほんの数年前とは大きく異なっています。  今日のデザインは、才能ある一個人や少人数のデザインチームによるプロジェクトベースの仕事ではなくなりました。  むしろ、デザインは組織の優先事項に沿った継続的で反復的な動きを持ち、デザイナー、プロダクトマネージャー、マーケティング・営業部門、ソフトウェア開発者、エグゼクティブ、そして法務部門までもが連携(コラボレーション)する必要があります。  この複雑な現実に必要なのは、コラボレーション、権限設定、ファイル共有、ブレーンストーミング、プロジェクト管理、コード生成ができ、革新性、整合性、コンプライアンス、効率性を確保できる企業向けの機能を兼ね備えたデザイン・ツールです。さらに、世界中のデザインのプロフェッショナルやソフトウェア開発者からなるFigmaのコミュニティは、インスピレーションやベスト・プラクティスを得るための素晴らしいリソースでもあります。 それらは、各国のローカルなイベントやFigmaのフラグシップイベントConfigでも紹介されています。

Figma Japan ウェブサイト

Figma Japan カントリーマネージャーが書いたConfigの振り返りブログ「Config 2024 – Figma’s conference for people who build products」

日本の現状:日本における営業、マーケティング、トレーニング、サポートチームが完全に機能している。Vercel(フロントエンド開発プラットフォーム):デザインできあがったら、ソフトウェア開発者は、そのデザインを実際に運用するウェブサイトやアプリにするためのコードを書き、カスタマーにリリースする必要があります。この作業はかつて、非常に複雑で、時間も費用もかかる技術的な仕事でした。しかし、オープンソースのフレームワーク(NEXT.jsなど)、AI、クラウド、自動化を利用することで、Vercelはフロントエンド開発者のためのプラットフォームを構築し、開発プロセスを簡素化することで、高品質でパーソナライズされたAI対応のウェブサイトを迅速に開発、デプロイ、スケール、保護できるようになりました。  

Vercel ウェブサイト(英語)

日本の状況:Vercelは日本に多くの顧客を持ち、国内でのサポートも行っていますが、まだ日本に営業やマーケティングスタッフはいません。日本の顧客のほとんどはデベロッパーで、グローバルな開発者コミュニティを通じてVercelを見つけています。Pendo(デジタルアダプション):デザインと開発が完了した後、デジタル製品はリリースされ、エンドユーザーに提供されますが、ここから製品の利用と継続を促進するための分析と最適化の活動が始まります。製品(または新機能)がローンチされると、プロダクトマネージャーは、「顧客は我々の期待通りにアプリケーションを使用しているか?」「新規ユーザーは必要なものを見つけられているか?」「不満を感じたユーザーはどこで問題にぶつかっているか?」「新機能は使用されているか?」といったことを知る必要があります。  こういった質問への答えがわかったら、開発者を介さずとも、素早く問題に対処できるツールセットも必要です。アプリ内ガイド、新規ユーザーへのオンボーディング、アンケートなどを、適切なタイミングで適切なユーザーに戦略的に表示・提供し、ユーザーの体験をナビゲートし、可能な限り迅速に価値を得られるようサポートできるツールは、高い顧客満足度、採用率、リテンションを確保するためにプロダクトマネージャーが必要とするものです。Pendoは、このような重要な活動を行うプロダクトマネージャーを支援するためのアナリティクスとデジタルアダプションツール一式を提供しています。

Pendo Japan ウェブサイト

日本の顧客事例

日本の現状:日本における営業、マーケティング、トレーニング、サポートチームが完全に機能している。

まとめ

2022年11月のChat GPT 3.5の衝撃的なリリース以来、「守りのDX」(セキュリティ、自動化、クラウド)から「攻めのDX」(データ、AI、AIを活用した新世代のアプリケーション)への明らかなシフトがありました。言い換えれば、デジタルトランスフォーメーションチームに課せられた使命は「コスト削減と効率化」から、「イノベーション、価値創造、収益創出」へと引き上げられました。前述の通り、これらの取り組みにおける成功の鍵は、ユーザー体験とデザインから始めることです。日本にはデザインの長い歴史がありますが、デジタルのデザインはハードウェアのデザインとは根本的に異なります。デジタルはダイナミックで、ユーザーごとにパーソナライズ化、最適化が可能で、リアルタイムで計測することができます。そのためデジタルデザインには異なるマインドセット、スキルセット、ツールセットが必要です。  UI/UXの作成及び運用のために利用できるデジタルツールは様々ですが、Figma、Vercel、Pendoはカテゴリーリーダーであり、デジタルトランスフォーメーションにおいて、次のステップを踏み出そうとしている企業にとっての最適な出発点となります。  

 

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