コロナの時代の企業経営: 「攻め」に転じる好機をつかむ

Written by
Ashvin Bachireddy

本記事はGeodesic Capitalの共同創立者アシュヴィン・バチレディ(Ashvin Bachireddy)によって、弊社のPortfolio含め、米国スタートアップの経営者を対象に執筆したものを日本語に翻訳した記事になります(英語版)。日本のデジタル・トランスフォーメーションに関連した興味深いコンテンツとしてお楽しみください。THE DOMEニュースレターへ登録する

はじめに

今年3月、新型コロナウイルス(COVID-19)の世界的流行(パンデミック)と、それに伴う経済危機に対し、企業のほとんどが守りの姿勢で対応した。これからは、多くの企業にとって「攻め」に転じる時である。パンデミックが終息したからではなく、これにより新たなビジネスチャンスが生まれているからだ。

パンデミックの初期に企業が慎重になるのはもっともである。新型コロナウイルスの流行で、これまでの経済予測と事業計画は成り立たなくなった。一般家庭や個人の消費が減少したように、企業も本能的に支出の削減に走った。この傾向は、手元資金がなかったり、長年における顧客基盤を築いていない多くのソフトウェアのスタートアップ企業において顕著であった。

マクロの視点で見ると、新型コロナの影響により、世界中のGDPは歴史上類を見ない壊滅的な打撃を被った。しかし、厳しい状況にかかわらず、企業は即座にリモートでビジネスを継続し、製品やサービスの販売や提供を行っている。

経済のV字回復を期待するのは、あまりにも楽観的で、新型コロナウイルス以前の状況にすぐに戻るとは考えにくい。企業が変更した運用方法の多くが、今後も継続して使用されることだろう。だからこそ、このニューノーマルに合わせた新しい戦略立案が必要であり、そして今、それを実行する時間もある。

景気が後退するたびに、新たな技術導入が進んでいくのは常である。しかし、今回の景気後退は経済の問題が原因でないばかりか、あまりにも突然に発生したため、企業の柔軟性と即応性が試されることとなった。

多くのソフトウェア企業では、1月31日が会計年度の最終日にあたる。我々は今、新型コロナウイルス流行後初めての四半期を終え、コロナ禍における企業運営の結果を目の当たりにしている。その中には業績が非常に良い企業もある。

このような企業こそ、今、攻めの姿勢で臨む時だ。現金を所有している企業やパンデミック関連でより業績の好調な企業であれば、これを好機と捉え、更なる高みを目指すために必要な人材を採用し、顧客との関係を深め、顧客のデジタル・トランスフォーメーションを支援し、戦略的な買収に踏み切ることも可能だろう。

人材の確保

企業がパンデミック対応で採用した施策のいくつかは、そのまま継続されていくと思われる。リモートワークはすでに定着した。これにより、国内の離れた地域、そして外国にいる人材さえも採用することができるようになる。

シリコンバレーのようなTech hub(テクノロジー拠点)にある企業が、現地在住の人材に多額の報酬を支払っているのは、ライバル企業からの引き抜きを阻止するためでもあるが、現地の従業員が物価が高い地域に住まざるを得ないという事情もある。

リモートワークが可能であれば応募者の幅が広がるし、これまでよりも低い報酬で喜んで働く人材も出てくるだろうが、これらが最大の利点というわけではない。テクノロジー業界全体の慢性的な問題として、重要な役職の人材に多様性が欠如していることが挙げられる。

人事部門で明らかに偏った人材採用をしないよう徹底したとしても、人々が顔を突き合わせて働く仕事場では、ほぼ間違いなく「適合していくこと」が重視される。多くの人々のキャリアの中での成長が好調なのは、同じような経歴や興味を持つ社員の中で働いているからだ。

多様性を高め、性別、年齢、人種、障がい、性的志向、非協調性などに対する明らかな偏見と闘うことは、単に正しいだけでなく、多様な視点での展望を持てるという意味で、多くの企業にとって利点となるだろう。

仕事場に出かけて働く必要がなくなると、これまでの共通性に意味はなくなり、社員が評価されるのは、企業に与える影響や仕事の成果のみとなる。つまり、リモートワークによって、シリコンバレーで過小評価されてきた人たちが才能を開花させる可能性が出てきたのだ。

困難な時期は顧客ロイヤルティ構築の好機

このような困難な時こそ、顧客との関係を強化する好機となる。

お客様から電話があり、「本日お支払いはできません。60日後でもいいですか?」と言ったとしよう。あなたには「分かりました」と答える以外、選択の余地はほとんどない。

売掛回収期間(DSO)は延長しなければならないだろうが、これを単なる取引の問題だと考えてはいけない。この機会にお客様の状況や課題について聞きだすのだ。資金繰りに苦戦しているのか、それは経費の問題なのか、収益の落ち込みか。

しばらくの間新規顧客を獲得するのが困難かもしれないが、すでにお付き合いのある顧客であればより深い関係を構築することは可能だろう。現在多くの企業が、取引業者の数を絞る作業を行っている。つまり、既存顧客に更なる支援ができれば、単なる取引業者の1つとして切り捨てられることなく、戦略的パートナーとして生き残るチャンスとなるのだ。

顧客のデジタル変革の支援

最近、ナイキ社のCEO、ジョン・ドナホー氏が投資家に報告したところによると、第1四半期の収益は大幅に減少したものの、ナイキのアプリはこの不況下で何百万回もダウンロードされていた。また、売上高の30%はD2C(Direct-to-Consumer: メーカーと消費者の直接取引)だったが、これはナイキが2023年までに達成できるとは予測していなかった数値であった。

この突然の不況に加え、ソーシャルディスタンスを取ることを強いられた構造変化の中、ナイキは財政的損失を最小限に抑えながら、数年はかかる変革を数か月に短縮する必要があった。

最近の別の収支報告で、Microsoft社のサティア・ナデラ氏は、今や7500万以上のユーザーが、Microsoft Teamsを日常的に使用していると指摘し、「我々はこの2か月で2年分のデジタル変革を目の当たりにした」と語った。

顧客のデジタル変革を支援することが、企業の価値を顧客に提示できるチャンスとなる。この困難な状況を脱するために顧客に何が必要かを把握し、新製品や機能を開発、提供する。そして、新たな顧客セグメントをターゲットに定め、対応可能なマーケットを拡大する。これは、競合を抑え、顧客に必要な唯一無二の存在となる機会なのである。

顧客は、収支決算にさらに注意を払うようになっている。現在顧客が抱えている問題への解決策として製品やサービスを提案する場合、セールストークを変えていく必要があるだろう。半年前、Zoomは単なるビデオ会議サービスだった。今日ではリモートワークを可能にするツールである。これらは同じ製品を説明しているものだが、現在は後者のほうが強力にアピールできるのだ。

新たな地域や国々への市場拡大と戦略的買収の検討

教育とテクノロジーの融合を目指すEdTech(教育テクノロジー)、telehealth (遠隔医療)、コラボレーション ソフトウェア、あるいはeコマースといった成果を上げている分野へのリソースの再配置は検討する価値がある。

現在、回復力が速いと思われる多くの海外市場は、新型コロナウイルスの感染拡大を抑制する措置を取り続けるだろう。新型コロナウイルスは、今後予測されるあらゆる場面で、ビジネスに影響を与えていく。もし、国内市場で効果の出た対応策があるならば、今こそ世界中の顧客をターゲットにし、新たな市場参入をサポートしてくれる戦略的パートナーを求める絶好の機会である。

投資家のウォーレン・バフェット氏は、「人が貪欲なときは警戒し、人が警戒しているときは貪欲であれ」と言った。

バフェット氏は著名な投資家であるが、彼の哲学は、人は市場が楽観視しているときに高値で買うが、実は悲観的な時こそ良い買い物ができるというものだ。これをスタートアップに置き換えてみよう。非常に厳しい状況にいるスタートアップ企業が増えてきており、投資家たちは我慢の限界、あるいは神経過敏になってきている。

この状況こそが戦略的買収を検討する好機である。ライバルを減らすため競合他社を買収すること、現行の製品やサービスをより包括的に提供できるように、補完機能を持つ企業を買収することなどが考えられる。

まとめ

パンデミックによって、企業はこれまでのビジネスモデルの最も基本的な部分について再考を迫られている。ワクチンに期待を寄せるニュースはあるものの、少なくとも来年はビジネス環境を構築していく年になると予想される。多くの企業にとって、戦略が実行できるようになるまでただ待つことはできないはずだ。

スタートアップ企業も試練に直面したが、経済的混乱によって新しいテクノロジーの導入は否応なく加速している。新型コロナウイルスとそれに続く景気後退は、柔軟で即応性の高い企業にとっては大きなチャンスとなるであろう。

人的・金銭的余裕のあるスタートアップにとっては、今は既存顧客との関係を強化し、顧客のデジタル変革を支援し、真の戦略パートナーとしての価値を証明する絶好の時である

さらに攻めに転じる余力があれば、新たな市場や経済分野への進出や買収を検討する。また今こそ、戦略的に人材を雇用し、テクノロジー業界でこれまで過小評価されてきた人々の才能や新たな視点を活用する最適な時となるだろう。

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