Geodesic Forum 2023:シリコンバレーのダイナミズムに迫る

はじめに

株価は2021年末のピークから大きく下落しています。 Facebook、Google、Microsoft、Salesforce、そして多くのスタートアップで、前代未聞のレイオフが毎週続いています。 シリコンバレー銀行も倒産してしまいました。 外から見ると、テック業界は混沌としているように見えるかもしれません。しかし、テクノロジーの歴史が明らかにしていることがあるとすれば、今がまさに最大のチャンスの時なのです

メディアは表面上のネガティブな出来事に焦点を当て、大抵その下で起きているダイナミックな変化を見逃しがちです。シリコンバレー(SV)のダイナミズムは新しいスタートアップ企業が既存の企業に絶えず挑戦するという技術的破壊に根ざしています。しかしその動きは技術的な競争に留まらず、消費者の嗜好の変化や政治・地政学的な状況、株主の期待、金融・規制環境など、あらゆる外部変化に迅速に対応するという幅広いカルチャーをも推進しています。

今の世の中は、変化に事欠かず、SVもそれに対応しています。しかし、大企業、中小企業、そして新しいテクノロジー企業による意図的な行動は、私たちが直面している課題への解決策を見いだす上で、必ずや世界をリードし、その過程で信じられないほどの価値を創造し続けると確信できます。DXを専門とする人にとって、何が起きているのかを正確に分析し、自信を持って結論を出し、それに従って行動することが、これまで以上に重要なのです

Geodesic Forum 2023

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Geodesic Forum 2023 | Tech Conference & One-on-One Meeting

2023年2月20日~22日、私たちGeodesicは、毎年恒例のフラッグシップイベント「Geodesic Forum」の一環として、SVのトップテックスタートアップ企業のCEO、14名を東京に招聘する機会を得ました。 3日間で約700人の参加者が、テック・カンファレンス、米国大使公邸でのエグゼクティブ・ネットワーキングイベントに参加し、日本企業との1on1ミーティングは80セッション以上開催されました。

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Tech Conference パネルディスカッション
“The Future of Web Development-A Conversation”
Kurt Mackey, Co-Founder and CEO of Fly.io / Guillermo Rauch, CEO of Vercel / Divya Sudhakar, Partner of Geodesic Capital
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Tech Conference プレゼンテーション
Rakesh Loonkar, President and Co-Founder of Transmit Security

SVを理解するためには、スタートアップ企業、特に創業者やCEOに直接話を聞くことが一番有効です。 3日間、私たちはこれらの企業と会い、彼らの話を聞き、彼らの技術について学び、日本での計画について話し合いました。 参加者全員にとって素晴らしいイベントとなり、個々の知見だけではなく、SVの全体的な状況についても多くのことを学ぶことができました。以下に、主な学びをいくつかご紹介します。

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Networking Reception | SV企業と日本企業の交流

混沌とするSVで業績の明暗を分つもの

実際、多くのテクノロジー系スタートアップは、苦戦しています。 特に「ムーンショット」技術(高度で野心的だが、新しくて実績のない技術 – Web3、自動運転、空飛ぶタクシーなど)を持つ企業は、ムーンショットは定義上、ハイリスクハイリターンの提案なので、常にそれぞれ課題を抱えているカテゴリーではありますが、金利上昇や収益とバリュエーションへの再注目があり、これらの課題はさらに深刻になってきています。 しかし、ムーンショット企業も興味深い方法で適応してきています(これについては後述します)。

一方、SVには依然として業績が非常に好調な企業もたくさんあります。 メディアはネガティブな話題ばかりを取り上げるので、こうした企業の話はあまり聞こえてきませんが、現在あるこの不確実性は、テクノロジーの購買者を、収益の増加やコスト削減といった、すぐに結果が測定できる製品やサービスに集中させる効果をもたらしています。 Geodesic Forumに参加したSV企業の多くは、このカテゴリーに属します。 ムーンショット企業とは異なり、これらの企業は、データ(解析、機械学習、BIなど)、サイバーセキュリティ、自動化、製品利用促進、UI/UXデザイン、開発者の生産性など、「ITインフラ」という基本に立ち返るグループと言えるでしょう。 これらの企業が好調なのは、次のような理由からです。

  1. 前述の通り、収益の増加やコスト削減・効率化を通じて顧客に直接的なプラスの影響を与えるか、あるいはその他の緊急または戦略的なニーズ(リモートワークなど)を満たすものである。

  2. 多くの企業が、より野心的だが確実性の低いプロジェクトを一時中断し、上記1に貢献できる技術に注力するようになった。

  3. 企業は、未来がどのようなものであれ(生成AI、Web3、AR/VRなど)、これら以外にも、まだ発見されていない他の新しいトレンドを活用したいのであれば、まず基本をマスターする必要があることを理解しています。

私たちは、未来が現実のものになりつつあるのを目の当たりにしていますが、受け入れ体制は整っているでしょうか? クラウドへの移行、データの取得・整理とマネタイズ、デジタル資産と人のセキュリティ確保、自動化による生産性の向上、適切なソフトウェア開発ツールの採用による開発者の生産性の向上。これらはすべて、次のイノベーションの大きな波が何であれ、その波を利用する能力と敏捷性を企業に与える基礎的なITスキルになります。 そのため、これらの製品やサービスを提供するベンダーは、この厳しい環境下でも成長を続け、非常に良い業績を上げています。以下は、Geodesic Forumに参加したB2Bソフトウェア企業のリストです。

Chronosphere:  次世代クラウドデータ監視ソリューション(格納データを最適化)
Edge Delta:  次世代監視可ソリューション(エッジデバイス側でクラウドに格納すべきデータを自動学習・最適化)
Fly.io:  クラウドアプリケーションのマルチリージョンディプロイを自動化するサービス
Orca:  マルチクラウド環境のセキュリティリスクを瞬時に解析
Pendo: 製品分析、製品アダプション支援
Pindrop:  音声認証
Sourcegraph: AIベースのコード検証により、開発者の生産性向上
Vercel:  Next.jsのクリエーターが開発したWebのフロントエンドディプロイの自動化プラットフォーム
Tanium:  エンドポイントIT資産保護・管理
Transmit Security:  パスワードレス認証とID管理
Weights&Biases:  機械学習開発プラットフォーム

彼らは、革新と成長を続け、日本をはじめとする世界市場への積極的な参入を目指す素晴らしい企業ばかりです。

「ムーンショット」は消滅したのか?

前回行ったGeodesic Forumは2020年2月で、3年前の新型コロナウイルスによるロックダウンの直前でした。 当時はモビリティへの関心が非常に高かったので、自動運転スタートアップAuroraのChris Urmson氏を含む、SVで最も注目されているモビリティ関連スタートアップ3社のCEOに、テック・カンファレンスのスピーカーとして登壇いただきました。 AuroraはGeodesicのポートフォリオ企業で、このような革新をもたらすカテゴリーに関われることを大変嬉しく思いました。 当時、自動運転の流れは、もっと大きく、より一広範な期待を背負っていました。 しかし、新型コロナウイルスや昨今の金融市場の混乱により、多くの有名企業が自動運転事業を売却したり停止したりしています。以下は、その変化の一例です。

  • ライドシェア企業のUberとLyftは、いずれも2020年に自動運転ユニットを売却。 UberはAuroraに、LyftはWoven Planetに。

  • 2022年10月、FordとVolkswagenは、一時120億ドル(約1兆6000億円)と評価された自動運転スタートアップArgo AIを閉鎖 (2017年にFordがArgo AIに10億ドル、Volkswagenが$28億ドルを投資)。同社は2,000人以上の従業員を抱え、最も有望なAVスタートアップ企業の1つとされていた。

  • 2023年3月3日、上場企業(2021年SPAC経由)で自動運転トラック技術の主要開発企業であるEmbark Trucksは、従業員の70%を削減し、会社の閉鎖を検討していることを発表。

とはいえ、上記のようなトラブルがあっても、自動運転事業が死んだわけではないことは確かです。 実際、今はかつてないほど焦点が絞られ、明確になっています。 大手ハイテク企業、新興企業、自動車OEMのすべてが、最終的にそれぞれの戦略に落ち着き、すでに技術開発を完了させ、最も効率的な方法で製品を市場に投入することに焦点を当てている特定のグループを支援しているようです。

これらの企業の中には、Aurora(Uber、トヨタ、Volvo、Paccar、FedExなどが支援)やCruise(GM、ホンダ、ソフトバンク、Microsoftが支援)などのスタートアップ企業、Google(Waymo)やAmazon(ZOOX)などのテック企業、そしてもちろんTeslaやトヨタ(ソフトウェア子会社のWovenを通じて)などのOEMもあります。 ここで最も重要な質問です。「自動運転は、その熱狂の頂点だった3年前よりも期待できる技術なのか?」です。

私は、それは場合による、と主張したいと思います。 確かにこのような環境下で、新しい自動運転関連のスタートアップを立ち上げるのは難しいでしょう。 しかし、ここ数年の困難を乗り越え、レースの先頭を走る企業にとっては、より成熟した技術と、焦点を絞ったビジネスプラン(多くは物流やライドシェアを中心としたもの)があり、競合他社も少なく、事業パートナーの支援も強固で、エンジニア人材も獲得が比較的容易になっています。自動運転が今後、期待に沿うかどうかの判断はできませんが、こういった企業には、より明確な成功のチャンスがあるようです。

私は、自動運転を特別に推奨しようとしているわけではありません。 自動運転は、広範に起こっていることの一例に過ぎません。 SaaSやシェアリングエコノミー、フィンテックなどでも同様の力学が働いています。同様に、ヘッドラインの裏で起こっていることの詳細を見ると、新しい環境に適応するために、同業他社よりもより多く行動を起こし、技術的、戦略的、組織的に優れた立場にありながら、状況が改善すれば、成功し、より成長する企業の存在が見えてきます

過去10年間、特にCOVIDの最初の2年間は、過剰な資本が大規模な非効率を引き起こし、経営がうまくいっていない企業でも成功しているように見えていました。 しかし今、資本が再び不足するようになり、より上記に挙げたことがより明確になってきています。 現時点で新しい技術に投資することにリスクがないわけではありませんが、過去3年間のどの時期よりも魅力的に見える領域があることは確かです。

まとめ

資本市場は拡大と収縮を切り返し、今のように混乱に陥ることもありますが、イノベーションは決して止まりません。 テック企業が何十万人もの従業員を解雇している間にも、彼らは未来に向けて巨額の投資を行っています。

マイクロソフトは先月、Open AIに100億ドル(約1兆円)を投資しました。 Facebookは今もメタバース(おそらく今のSVにおける最大のムーンショットプロジェクトでしょう)に四半期ごとに数十億ドルを投資しています。Adobeは昨年、デザインとプロトタイピングのプラットフォームFigmaを200億ドル(2兆4000億円)で買収する提案をし、最大級規模となる非公開B2Bソフトウェア企業の買収を発表しました(この記事を書いている時点ではまだ規制当局の承認待ち)。Elon Musk氏はTwitterに440億ドルも費やしています。

テクノロジーは非常にダイナミックです。 方向転換することもありますが、常に前進しているのです。 そのため、DXで成功するには、強力な基盤(データ、サイバーセキュリティ、ソフトウェア開発、デザインなど)、優れた情報へのアクセス、俊敏性が必要です。 今は変化の時です。正くポジションを掴み、メディアが伝える話のその先を見て、勇気を持って行動する人にとっては好機なのです。

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