Geodesic Forum 2024:AI、エネルギー、国防などのその先にあるもの

Written by
MARCUS OTSUJI

日本はあまり変化がないとよく言われます。 しかし、2024年の今日、日本は歴史的ともいえる大きな変化に満ちています。 変化だけでなく、30年前のバブル崩壊以来初めて、国の方向性、そして、経済的、技術的、地政学的な世界秩序における日本の位置づけに関する優先順位が明確になっているように見えます。

2024年 2月19日〜21日、歴史あるホテルオークラ東京で開催された年次カンファレンス Geodesic Forum 2024で、私たちはこうした変化は確実なものであり、それらが日本にもたらす大きなエネルギーを目の当たりにしました。ですが、フォーラムでの出来事をお話しする前に、一歩下がって、私たちが日本で目にしている注目すべき変化をいくつか見てみたいと思います。

日本で起きていること

これは、網羅的なリストでは全くありませんが、以下に挙げる変化・出来事・成果は、日本の戦略的関心・投資分野に関する政府、民間企業、消費者からの明確なシグナルであると考えています。 

  • 国家安全保障:2022年12月、岸田首相は2027年までに「国家安全保障関連支出」をGDPの1%から2%に倍増させる計画を発表。 
  • 宇宙: 2024年1月20日、JAXA(宇宙航空研究開発機構)が、米国、ロシア、中国、インドに次いで5カ国目となる月着陸に成功。
  • 原子力発電:2023年2月28日、日本はGX脱炭素電力供給法案を閣議決定。原子力発電所の法定運転期間を現行の40年から最長60年に延長。
  • 半導体製造:2024年2月24日、TSMCは日本初の大規模半導体製造工場を開設し、熊本に2つ目の大規模半導体製造工場を建設する計画を発表。
  • AI研究Google Mindの著名なAI研究者(David Ha氏とLlion Jones氏)が、新しい生成AI研究スタートアップ(Sakana.ai)の拠点として東京を選んだ。2024年1月には、Lux CapitalやKhosla Venturesといったリード投資家と共に我々Geodesicも参加した約45億円のシード資金の調達と、経済産業省が生成AI開発を支援する「GENIAC」の7つの研究機関の1つに選ばれたことを発表した。
  • 生成AIの採用:2023年4月、OpenAIのCEOであるサム・アルトマン氏は、初の海外出張として日本を訪れ、岸田首相やビジネス・テクノロジーのリーダーと会談し、OpenAIが日本や日本語能力に投資する意向を示した。

上記のリストには、日本経済の屋台骨を形成している日本のこれまでの強みである分野(製造業、自動車、産業用ロボット、ハイエンド・エレクトロニクス、化学、その他のディープテック産業)は含まれていません。しかしこのような強みを持つ分野に加えて、日本はいま、上記に挙げたような、存亡の危機であると同時に大きなチャンスでもある新興分野において、より積極的な姿勢を取っています。生成AIバリューチェーン(半導体、基盤モデル、AIアプリケーション)からエネルギー安全保障、航空宇宙、国防といった全ての分野において、日本は国益を守り、次の成長段階へと進む道を切り開くために、経済力と技術力を積極的に主張しています。

また同じく重要なのは、こうした変化をもたらすために外部の企業や個人と提携を続けていることです。 TSMCの半導体製造への関与、Sakana.aiの外国人共同設立者、岸田首相とサム・アルトマン氏との面会など、日本は将来のビジョンを実現するためのパートナーに門戸を開き続けています。

Geodesic Forum 2024

昨年(2023年)8月にフォーラムの企画を始めた時、私たちが感じたのは、このような変化を反映して、何か違うことをしなければならないということでした。 例年通り、IT分野、特にAIに焦点を当てたものになることは分かっていましたが、今年はそれ以上のものにする必要がありました。 そこで、扱うトピックの幅を広げた結果、これまでで最も多様なスタートアップのラインナップを揃えることができました。

– DX: まずはもちろん、B2Bソフトウェアのスタートアップの素晴らしい主要企業からスタートしました。 Cohere(カナダ)、Pendo(ノースカロライナ州)、Sakana.ai(東京)、Robust Intelligence、Merge、Cortex、Thoughtspot、Vercel、Nile(すべてカリフォルニア州)。

– 国防: そして今回、初めて防衛テック企業を迎えました。 AIに次いで、防衛技術はシリコンバレーで最も注目を集めているホットな分野です。Saronic(自律型水上艦艇、テキサス州)、Chaos(次世代レーダー技術、ロサンゼルス)、Emesent(自律型マッピング・ソリューション、オーストラリア)

– エネルギー変革:最後に、Commonwealth Fusion Systems (CFS) の創設者 兼 CEOであるボブ・マムガード氏を迎えました。彼はマサチューセッツ工科大学(MIT)からスピンアウトした最先端の研究をもとに核融合を商業化するため、トップクラスのエネルギー投資家から20億ドルを調達しました。

東京での3日間で、私たちは日本の大手産業界、金融機関、政府機関と100件以上のOne on Oneのミーティングを行いました。 ホテルオークラ東京で開催されたテック・カンファレンスでは、400人を超えるテクノロジーやビジネスのリーダーたちをお迎えし、ラーム・エマニュエル駐日大使主催の米国大使公邸レセプションでは、日本とシリコンバレーから約200人のエグゼクティブが集まり、小池百合子東京都知事にもご参加いただきました。

以下、写真とイベントの概要です。

テック・カンファレンスにて、Geodesic Capital 創業パートナーのジョン・ルース元駐日米国大使が日米同盟の現状について考えを述べました。

Oracle、Salesforce、Nvidia、Index Venturesなどが支援する生成AIスタートアップであるCohere社の共同創業者ニック・フロスト氏が、ハルシエーション、単純な数学計算の不正確さなど、現在のLLMの限界を克服するための企業向けソリューションについて説明しました。

Saronic社のCEOであるディノ・マブルーカス氏は、同社の自律型水上艦艇と、海軍や海上部隊に支援や情報を提供するために、それらがどのように使用されるかを紹介しました。 今現在のウクライナとロシアの戦争におけるドローンの使用からわかるように、国防における大きなトレンドが自律システムであると再度考えさせられました。

Commonwealth Fusion Systems(CFS)社の創設者 兼 CEOであるボブ・マムガード氏は、ボストン郊外に建設予定のARC核融合発電所とその前身であるプロトタイプ(SPARC)による、無限のクリーンエネルギーへ向けた同社の道筋を説明しました。

シリコンバレーに拠点を置くRobust Intelligence社の共同設立者である大柴康人氏(日本出身)が人工知能のセキュリティとリスク管理について講演しました。

東京を拠点とするAI研究スタートアップ、Sakana.ai社のCEO 兼 共同設立者であるデイビッド・ハ氏は、生成AI研究の次なる最前線として、自然から着想を得たAIや進化計算などのコンセプトを紹介しました。

テック・カンファレンス後のネットワーキング・レセプションでの様子です。

シリコンバレーのエグゼクティブが集まり、著名な経済学者であるイェスパー・コール氏から日本の経済、人口統計、社会のトレンドについて学びました。

ラーム・エマニュエル大使主催の米国大使公邸レセプションでは、エマニュエル大使、ジョン・ルース大使、小池百合子東京都知事から、日米同盟に関するポジティブでサポーティブなメッセージが共有されました。

Winning in Japan I&II:2つのWinning in Japanセッションを通して、シリコンバレーの起業家たちは、13年間AWS Japanの社長を務めた長崎忠男氏、Weights & Biases カントリーマネージャーの柴田暁氏、Workato Japan バイスプレジデント 兼 ゼネラルマネージャーのアラン・テン氏など、日本で重要なビジネスを構築している事業者から直接話を聞くことができました。 この3人のビジネスリーダーには、日本のビジネス文化、日本のGTMに関して考慮すべき事項、製品のローカライズ、サポート、コミュニティ構築などのトピックについてのベストプラクティスや学んだことを共有してもらい、Geodesicのシニアアドバイザーであるジェームス近藤とGeodesic Japan カントリーマネージャーのマーカス尾辻(筆者である私)がこれらのセッションをリードしました。

学んだこと

連携:3日間のフォーラムを通じて再認識したのは、日米同盟がこれほど長く続いてきた理由のひとつは、日米両国が共有している基本的価値観と戦略的方向性が緊密に一致しているからだということです。 日米両国はともに民主主義と資本主義を支持していますが、日本はアジア独自の民主主義と市場経済を代表する国です。そのため、同じような価値観と志を持つこの地域の他の国々にとっての道標であり、インスピレーションとなっています。 日本の経済力と地政学的影響力は平和の柱、侵略に対する防波堤となっており、これらの価値観は日米同盟の中核を形成しています。

相乗効果: 経済面でも日米は非常に相乗効果の高い関係を築いています。 日米は多くの産業で競合していますが、日本企業は企業の中核となる技術を含め、世界中の主要な製造企業にインプットを提供しており、ディープテックと製造業を基盤とする日本の経済は、グローバル・サプライチェーンの重要な一部となっています。 しかし、企業向けソフトウェアについては、日本は主に海外の大手ベンダー(多くは米国)に依存しており、日本はB2Bソフトウェア市場としては世界第2位の規模となっています。 日本企業はデジタル・トランスフォーメーションへの積極的な投資を続けており、それは昨年、生成AIによって拍車がかかりました。 私たちは、日本の友人たちから、AIは最優先事項であり、その実現に向けて彼らを支援できる企業(国内外)との提携を求めているという声をはっきりと聞いています。 

継続的なイノベーション:シリコンバレーでは、毎日何百もの新興企業が設立されています。Geodesicでは、毎年何千人もの起業家、投資家、ビジネスリーダー、オピニオンリーダーと会い、日本にとって価値のある、真に魅力的な技術やアイデアを持つ起業家を探しています。我々はこの活動を8年間続けており、宇宙、製造、サプライチェーン、エネルギー、国家安全保障など、日米同盟に貢献する新たな分野を開拓しながら、デジタルトランスフォーメーションへの取り組みをさらに深めていきたいと考えています。 日米間の協業が可能な分野はたくさんありますが、シリコンバレーで何が起きているかを知る最もよい方法は、シリコンバレーの起業家と直接会って話をすることです。Geodesic Forumでは年に一度、CEOや起業家を日本に招き、パートナーやコミュニティにそのような機会を提供しています。 今年一年を通して、私たちはさらなるイノベーション、変化、変革を期待し、日本のパートナーに向けた情報や紹介を提供し続けることで、個々のビジネスと日米同盟の双方を強化する新たなパートナーシップを、今後数年間にわたって、サポートしていきたいと考えています。

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