Geodesic Forum 2025: 企業におけるAI導入の加速
Written byMARCUS OTSUJI

米国のトップレベルの企業向けAIスタートアップ17社が、のべ800名の日本のエグゼクティブ、IT、DXの専門家とともに、東京で3日間にわたり集結した「Geodesic Forum 2025:企業におけるAI」では、100を超える会議、プレゼンテーション、ディスカッションを通じて、3つの重要なそして明確な学びがありました。この記事では、フォーラム全体の活動やイベントを振り返りつつ、最後に日本企業がAI戦略を計画・実行する際に考慮すべき「3つの重要なポイント」についてまとめています。
イントロダクション
人工知能(AI)は依然としてシリコンバレーに大きな変革をもたらし続けており、前例のないスピードと規模の投資が行われています。2025年には、Microsoftが800億ドル(約12兆円)、Facebookが650億ドル(約9.8兆円)、そしてSoftBank(OracleおよびOpenAIと共同で)は、AIインフラの構築に向けて5,000億ドル(約75兆円)をコミットしています(複数年にわたる投資)。
この「生存競争」において、IT大手企業にとって明確な利益の道筋はまだ見えていませんが、ただひとつの目標は「負けないこと」のようです。一方、VCから資金提供を受けたスタートアップも、歴史的に見ても過去最大規模の資金調達と高い評価額を背景に、この一生に一度のチャンスを追いかけています。投資のリターンや最終的な勝者が誰になるかは予測不能ですが、これが技術革新を加速することは間違いありません。
過去2年間で、かつては専門的な概念だったものが広く議論されるようになりました。例えば、大規模言語モデル(LLM)や小規模言語モデル(SLM)、マルチモーダルモデル(音声、動画、画像など)、空間知能、進化的モデル融合、自律エージェント、身体性を持ったAI(ロボット工学)、エッジまたはオンデバイスモデル、推論、量子AI、そしてAIガバナンス・セキュリティ・ポリシーといった分野などです。
変化のスピードは驚異的であり、破壊的イノベーションや混乱に慣れたシリコンバレーの内部関係者でさえも、AIがもたらした新たなエキサイトメントと混乱に直面しています。
Geodesic Forum 2025
今年のテーマを考える際、「AI」の他に選択肢はありませんでした。また…です(昨年に引き続き、このテーマは二度目になります)。混乱の中でも、日本企業は世界中の他の企業と同様に、自社のAI戦略を積極的に模索しています。ただ、昨年との大きな違いが一つありました。Geodesic Forum 2024では、主に技術(AIは何ができるか?)について話されていましたが、今年、日本企業からはより実践的な質問がありました。例えば「アメリカの企業が実際に導入しているのはどのような技術なのか?」という問いです。つまりは、彼らが求めているのは投資家の関心やスーパークールな技術デモではなく、実際の顧客の関心や反応です。これを踏まえ、私たちは以下の米国のスタートアップを招聘し、3日間にわたって、1対1のミーティング、カンファレンス、ネットワーキング、ラボにご参加いただきました。
- Alkira: クラウドネットワーキングをNaaSとして提供
- Cast: クラウドインフラストラクチャ運用自動化、コスト最適化
- Databricks: 統合データ分析プラットフォーム
- Dremio: ハイブリッドデータレイクハウス/ オンプレとクラウドのデータの同時利用
- Figma: コラボレーション型デザインプラットフォーム
- CFS: 核融合発電
- Glean: AIドリブンエンタープライズ検索エンジン
- Hightouch: マーケティング向けデータ活用
- OpenAI: 高度なAIモデルの研究
- Pendo: プロダクト分析とガイダンス
- Poolside: コード生成・管理用ソフトウェア開発向けAI
- QAWolf: QAテストを自動化するプラットフォーム
- Sardine: AI リアルタイム不正検出
- Scale: AI向けデータラベリング / モデル開発データコンサルティング
- Snyk: 開発者向け AIセキュリティプラットフォーム
- Tanium: エンドポイント管理とセキュリティ
- Vercel: 開発者向けNext.jsを活用したWebアプリ AI活用開発ツール
- Workato: ワークフローとアプリケーションの自動運用化 と AIコンシェルジュ
- Writer: 企業向けAIコンテンツ生成プラットフォーム
各企業がそれぞれユニークなストーリーを持っており、AIというパズルの各ピースを代表しています。つまり「AI」は文字通り、あらゆる場所で活用されているのです。3日間にわたって開催されたフォーラムでは、以下のようなイベントを行いました。
1on1ミーティング
今年のフォーラムでは、計125の1on1ミーティングが行われ、金融、産業、交通、通信、ITといった分野の日本の大手企業40社以上が参加しました。
Glean社(左)とVercel社(右)が日本企業と1on1ミーティングをしている様子
テック・カンファレンス
Geodesic Capitalの創設者であり、元駐日米国大使のジョン・ルース氏が主催する本イベントのメインカンファレンスでは、今回も立ち見が出るほどの盛況ぶりで、400名以上が参加しました。Glean、Poolside、Workato、OpenAI、Databricksからスピーカーが登壇し、ルース大使やGeodesic Capitalの投資責任者であるジョン・レズニックとともに「企業におけるAI」をテーマにお話をいただきました。
登壇者及びプレゼンテーマ
- エンタープライズAIスタック:Jon Rezneck(Geodesic Capital パートナー 兼 投資チーム責任者)
- エンタープライズ検索とAIプラットフォーム:Arvind Jain(Glean社 CEO 兼 共同創業者)
- ソフトウェアエンジニアリングのためのAI:Paul St. John(poolside社 最高収益責任者)
- AIとエージェント時代のためのエンタープライズ・オーケストレーション:Vijay Tella(Workato社 CEO 兼 共同創業者)
- Open AIのミッションと製品紹介:⻑﨑 忠雄(OpenAI Japan 代表執行役社⻑)
- データインテリジェンスプラットフォーム:笹 俊文(Databricks Japan 代表取締役社長)
- Ambassador John Roos(Geodesic Capital 創業パートナー、元駐日米国大使)
Developer Lab
ソフトウェアの設計、開発、運用が日本企業にとってますます重要になる一方で、エンジニアの人材不足が続いている現状を踏まえ、今回初めて開発者向けのイベント「Developer Lab」を開催し、開発者の生産性と創造性を高める最新技術を紹介しました。イベントの開催にご協力いただいたGeodesic Capitalのリミテッド・パートナーである日鉄ソリューションズ株式会社様、そして成功に導いてくださったVercel、Poolside、QAWolf、Figma、Snykの皆様に心より感謝申し上げます。
米国大使公邸でのエグゼクティブレセプション
第二次世界大戦後の平和条約が調印された歴史的な会場にて、産業界および政府のリーダーを招き、シリコンバレーからのゲストとのネットワーキングを行いました。
Winning in Japan
「Winning in Japan」はフォーラムの一番最後に行われ、シリコンバレーの経営陣がGeodesicチームとともに、イベントを振り返り、日本市場参入におけるベストプラクティスについて学び、議論するセッションです。Geodesicのポートフォリオ企業の創業者や実務担当者が特別ゲストとして参加し、実際の経験を通じて得た貴重な知見を共有いただきました。
登壇者及びプレゼンテーマ
- 日本市場参入 CEOの視点:Guillermo Rauch(Vercel 創業 兼CEO)
- 日本法人責任者の視点:川延 浩彰(Figma 日本カントリーマネージャー)
- 成功するための採用戦略:近藤ジェームズ(Geodesic Capital シニアアドバイザー)& Andrew Nimmer(ScaleInsight 創業者兼CEO)
3つの重要なポイント
Geodesic Forum 2025で行われた100以上のミーティング、プレゼンテーション、対話から、企業がAIを成功裏に導入するための3つの重要な教訓が浮かび上がりました。
1. データの準備を整える
変化のスピードは速く、今後も加速し続けます。最新技術を追いかけるだけでは成功につながりません。企業が最優先で取り組むべきことは、AIに対応できるデータ環境を整えることです。そのための最も明確な方法は、Databricksの導入になります。※補足:DatabricksはGeodesic Capitalのポートフォリオ企業ですが、市場においてもその有効性が明確に証明されています。
どのようなアプリケーションを購入・開発し、どのシステムと接続し、どのようにデータを活用するかに関わらず、データはAIに適した形式で整理されている必要があります。その点で、DatabricksのData Intelligence Platformは、世界中の企業や政府機関から選ばれるテクノロジーとなっています。
2. 「買う」か「作る」かを見極める
すべてがAI上で動作する時代において、すべてを自社開発する必要はありません。ほとんどのアプリケーションは、モデルの適応(ファインチューニング、RAG など) によって、自社のニーズに合わせてカスタマイズできます。そのため、まずはデータの準備を整えること(前述のポイント1) が重要です。その上で、自社に最適なアプリケーションを選定し、導入することで、迅速に業務効率の向上やROIの最大化を実現できます。
3. アプリケーションの設計・開発は重要、そしてスピードが鍵
前述のポイント2の状況にも関わらず、AI時代においては、すべての企業がソフトウェア企業である と言えます。企業は、従業員や顧客向けの魅力的なアプリケーションを、効率的に設計・開発・運用できるようにすることが不可欠です。幸いにも、AIの最も強力な活用例の一つがソフトウェア開発そのもの です。すでに開発プロセスのあらゆる段階を最適化する優れたAIツールが登場しています。
例えば…
- FigmaのDevMode や VercelのDeveloper Cloud によるフロントエンド設計の簡素化
- QAWolfのAIを活用したQA自動化による開発・運用の効率化
- Snykの開発者向けセキュリティプラットフォーム
- Pendoのアプリケーション分析・最適化ツール
- poolsideのソフトウェア開発向けLLM
これまでよりはるかに少ないリソースで、高度なアプリケーションを市場に投入できる時代になりました。これからは、AIを活用してAIを作ることが、AI時代における企業の競争優位性を生み出す重要な要素となるでしょう。
結論
過去3年間で数多くの革新的な技術が市場に登場しましたが、AI革命はまだ始まったばかり であることは明らかです。来年、私たちはどこにいるのでしょうか? 5年後には、企業、産業、そして国はどのように変化しているのでしょうか? これらの答えはすべて、今日、そしてこれからの日々の意思決定 によって形作られていきます。投資、競争、協力、学び、そしてイノベーションを通じたこの旅の中で、正しい判断を下すためには、人とのつながりや情報が極めて重要 です。Geodesic Forum 2025 では、多くの新たな関係が築かれるのを目にすることができ、大変嬉しく思います。今後も、こうしたつながりを支援し、発展させていけることを楽しみにしています。