UI/UX分野での変化と課題

UI(ユーザーインターフェース)およびUX(ユーザーエクスペリエンス)は、デジタルトランスフォーメーションのラストマイルとも言われています。それは、デジタル製品のUI/UXがお客様や従業員との接点であり、ユーザーに価値を提供するものでもあるためです。

作成者
アービンド・アイヤラ:Geodesic Capital パートナー(投資チーム)
尾辻 マーカス:Geodesic Japan カントリーマネージャー

UXで成功する企業

多くのビジネスモデルは、ユーザー体験より自己利益に注力している
– ティム・クック

UXで最も成功している企業の1社がAppleです。この言葉はこれは、ユーザー体験に注力し、成功してきたAppleのCEOならではの言葉といえるでしょう。

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Geodesicのポートフォリオの中で、2017年にIPOを果たし、その後も成長を続けている企業にSnap社があります。同社メンバーは2017年2月、日本進出に向けた市場調査のため来日。その際フォーカスグループを実施し、1回あたり2時間、合計8時間かけて、ひたすらターゲットオーディエンスにさまざまな質問を投げかけていました。プロダクト担当バイスプレジデントが来日した際には、プリクラを体験したいというので原宿に連れて行きました。その時にも時間をかけてひたすらプリクラを体験していました。

ここでひとつお伝えしたいのは、UIとUXの順番です。Snapchatの例からも分かるように、まずはUX戦略を決め、次に実際にエンドユーザーが触れる部分であるUIをデザインする。その上で開発を進めるという流れが重要です。

UI/UX投資論(DDA+Dフレームワーク)

ただし、このDDAフレームワークに収まらず、その外で大きな創造的破壊(Disruption)を起こす企業も存在します。Transmit Securityがその一例です。同社が開発したパスワードレス技術が、UI/UXの大幅な改善につながっているのです。そこで弊社では、このディスラプションを起こす企業も含め、「DDA+Dフレームワーク」と表現しています。

追い風となる2つのトレンド

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UI/UX市場が成長している背景には、2つのトレンドがあります。それは、PLG(Product Lead Growth:プロダクト主導型の成長)と、ローコード・ノーコードのエコシステムです。

PLG(Product Lead Growth)
これまで営業やサポートといった人間が関わっていた部分が、プロダクトの中で完結できるようになるという動きです。Zoomもそのひとつで、日々Zoomを利用していても、Zoomの営業担当者に会ったことがある人は少ないのではないでしょうか。アップグレードやサポートも、すべてプロダクト内で完結するためです。その実現には優れたUI/UXが必要です。PLG関連企業の数は増加傾向にあり、IPOに至る企業も増加、時価総額も拡大しています。

ローコード・ノーコード
開発者不足の課題を解決するもので、開発の経験がない現場担当者でも開発できるようにするというビジネスモデルです。例えばWorkatoでは、開発者でなくても複雑なシステム連携やバックエンドのワークフロー自動化ができるというソリューションを提供しています。このように、開発者でない人が開発を手掛けるには、わかりやすいUI/UXを提供しなくてはなりません。こうしたトレンドによって、UI/UX市場が大きく拡大しているのです。

日本が持つ課題

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日々、重要度が増しているUI/UXですが、日本には独自の課題が存在します。

課題1:日本市場とグローバル市場の嗜好の違い
例えば、過去に日本で独自に進化した携帯端末は「ガラケー」(ガラパゴス携帯)といわれ、世界標準から大きく離れていきました。これと同じ現象がUI/UXの世界でも起きているのです。

GoogleとYahoo! Japanのトップページを比較してみると、米国ではページをできる限りシンプルにしようと考え、日本では狭いスペースにできる限り多くの情報を詰め込もうと考えます。どちらが良い・悪いと言っているわけではありません。ただ、日本で成功したとしても、海外展開の際にはその市場に合わせたUI/UXを用意するべきだということです。

課題2:内製化
デザインの重要性が見直されていることから、社内スタッフでデザインを内製しようと考える企業が増えていますが、そのためには人事制度を変更する必要もありますし、デザイナーやクリエイティブ担当者の中には、大企業に所属して働くことに抵抗を覚える人もいます。こうした課題にも真剣に向き合う必要があるでしょう。

デザイナーとデベロッパーの比率が激変

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デザインの内製化を進める動きは、多くの企業で見られます。例えばAtlassianでは、2012年におけるデザイナーとデベロッパーの比率は1:25でした。つまり、1人のデザイナーに対し25人の開発者がいたことになります。それが2017年には比率が1:9と、デザイナーの比率が劇的に高まったのです。同じ現象は他の企業でも起きています。特にIBMはこの傾向が顕著で、2012年に1:72だった比率が、2017年には 1:8にまでデザイナーの比率が高まりました。

この比率の変化の背景として、バックエンド開発の効率化が進んだことが挙げられます。バックエンドの開発は、クラウド移行、DevOps、SaaSの導入、マイクロサービス、APIの活用などで自動化が進み、効率が高まっています。一方、フロントエンドに関してはデザインが全部決まった後の開発作業はオープンソースプラトフォームのNEXT.JSやそのエンタプライズ版のVercelなどで少なからず容易になったものの、開発の手前のUXとUIのデザインプロセス、つまりお客様や従業員にどのような体験を提供したいかという一番重要な部分には、依然としてクリエイティビティや人同士のコラボレーションが求められ、自動化しにくい領域なのです。そのため、バックエンドからフロントエンドに要員を移す動きが進み、今では、50%もの企業でデザイナーとデベロッパーの比率が1:10以下となっています。

Figmaの衝撃的登場

もう一つ見逃してはならないUI/UXデザインプロセスの変化があります。UIデザインは、特定の人、グラフィカルな想像力に卓越し、実現しようとするサービス・システムのフローをより合理的に理解し、表現できる個人を中心になされてきました。Figmaは、デザインプロセスの初期段階から、組織の内外を問わず、多くのステークホールダーを積極的に関与させ、チームで行うものだというコンセプトから開発されました。ステークホールダーには、デベロッパー、マーケティング、事業責任者、経営メンバーがおり、時にアーリーアドプターとなる顧客も含まれるかもしれません。Webブラウザーで全てのデザイン作業を実現できるFigmaでは、デザインツールの使い方を理解していなくても、プロセスのどの段階でも、デザインパネル上で変更したい場所に直接コメントを記述することが可能です。Figmaが非常に短い時間で多くにユーザーを獲得できたのは、UI/UXの設計をデザイナーから全ての関係者に解放したからに他なりません。

UI/UXの核心となるのは、ユーザーのニーズを理解した上で、魅力的なデジタル体験を作り出し、美しく直感的なデジタル製品を構築することです。それが実現できてこそ、デジタル化が進んだ時代でも競争優位性を保つことができるのです。

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