日本のユニコーンはどこにいるのか?(Part1)

日本政府は、次世代のグローバルなユニコーン企業を日本から生み出すという明確な目標を掲げ、法律を改正し、政策を実施し、多くの資源を投入して、スタートアップエコシステムを支援しています。

この成功のためにこれまでに何が行われ、今後何が必要かについては、すでに多くのことが書かれ、発信されています。例えば、よりレイトステージのベンチャーキャピタルの必要、起業家に優しい法律、グローバルな人材の誘致(移民法と税法の改革)、労働力の流動化、日本の大学で開発された技術の商用利用などです。もちろん、これらはすべて、必ず解決しなければならない重要な構造的要素ですが、より根本的なレベルで、スタートアップの成功と経済成長に必要なものがもうひとつあります。

それは「イノベーション」です。

日本の企業は、実際にはすでに驚くほど革新的です。以前の記事でも述べたように、日本は、ロボット工学、化学、ハイエンドの電子機器、医薬品、センサー、半導体製造装置、輸送インフラ、エネルギーインフラ、造船、ジェットエンジン、自動車技術、素材など、多くのニッチな先端技術市場で世界をリードしています。 そのため、過去30年間にわたって家電製品の世界的な競争で徐々に敗れてきたとはいえ、日本は現在、上記技術分野の上流を握っており、日本企業は、非常に差別化され、収益性が高く、変革が難しい製品のグローバル・サプライチェーンの重要な一部となっています。その結果、日本企業は多くの利益を上げ、日経平均株価も大幅に上昇しています。 では、何が問題なのでしょうか?

日本のイノベーションを妨げるもの

いくつかありますが、そのうちの一つはデジタルです。今日、世界で最も大きく、最も急速に成長している市場はデジタルです。以下は、2024年10月11日時点での世界の時価総額トップ10企業です。

https://companiesmarketcap.com (順位は株価の変動を反映して毎日変動)

上位10社のうち8社はIT企業(米国7社、台湾1社)であり、トップ5社(Apple、NVIDIA、Microsoft、Alphabet、Amazon)すべてが米国デジタル企業です。さらに、上位10社以外でも、米国の次世代テクノロジー企業が上位100社に急速にランクインしています。Netflix(29位)、Salesforce(35位)、Service Now(68位)、Uber(90位)などです。 一方、日本は上位10にランクインした企業がなく、上位100にも1社(トヨタ自動車、50位)のみでした。たった1社です!そしてもちろん、上位100にランクインしたデジタル関連の日本企業もありません。

日本のイノベーションに限界があるのは、それがインクリメンタル・イノベーションであり、新しい技術の発見ではないということです。 既存の日本企業は、既存の市場で競合している今ある製品に対して漸進的な改善を行っています。 そのため、多くの既存の産業を独占していますが、新しくて、よりダイナミックな高成長デジタル市場にはまったく参入していません。 楽天、ソフトバンク、メルカリ、DeNA、LINEといった日本国内のデジタル企業もありますが、これらは技術革新の例ではなく、むしろグローバル化の例です。ピーター・ティール氏が著書『ゼロ・トゥ・ワン』で概説しているように、技術革新(0から1)は、まったく新しい技術が開発されたときに起こります。彼はこれを垂直型イノベーションと呼んでいます。一方、グローバル化(1からn)とは、ある国で発明された技術が他の国々で展開されることを指します。

楽天(eコマース)、ヤフー・ジャパン(メディア)、LINE(SNS)などは、優れた起業家によって経営されている素晴らしい企業ですが、これらの企業は主に米国で開発された技術やビジネスモデルを採用して、日本向けに調整しており、技術革新ではなくグローバル化の例と言えます。ここでの問題は、こういった企業が国内で大きな成功を収めている一方で、グローバルで成功を収めるのは非常に難しいということです。そして、日本政府が望み、必要としているのは、国内だけでなくグローバルに展開するユニコーンです。

ビットと原子(デジタルとモノ)の融合

デジタル市場の重要性は、単にグローバル市場や国内市場の時価総額ランキングにとどまりません。

前述の通り、日本は優れた経済を持ち、日本企業は世界のトップ100には入らないものの、その規模と重要性において総合的に小規模ではあるが重要な多くの製品市場を支配しています。 日本にとって、より大きなリスクはデジタル産業(ビット)とモノの産業(原子)が融合しつつあることです。 これまでは、デジタル産業とモノの産業は、それぞれ独立して存在し、発展してきました。 そのため、企業はどちらか一方に専念することができました。マイクロソフトはソフトウェアに、富士通はハードウェアに専念することができました。しかし、もはやそうではありません。「世界で最も価値のある企業」であるAppleが最も価値のある企業である背景には、ハードウェア、ソフトウェア、そしてサービスを展開し、Wintel(Windows + Intel)が合同で提供する製品よりもはるかに優れた製品を提供していることにあります。Appleは、デバイスのハードウェアの仕様を設計するだけでなく、オペレーティングシステム(OS)や多くの独自のアプリケーション、さらには、iOSとMacOSソフトウェア用に最適化され、パフォーマンスとバッテリー寿命を最大限に引き出すプロセッサまで設計しています。 さらに、App Storeは世界中の何百万人もの開発者を惹きつけ、彼らの存在もまた、AppleのエコシステムとApple製品を所有する価値を強化しています。これらすべてを連携させる鍵は、ハードウェア、ソフトウェア、サービスチームが独立して存在していないことです。 彼らは物理的に同じ場所で一緒に働き、困難な問題の解決やイノベーションのために協力しています。 これがAppleの真の競争優位性です。

自動車業界は、おそらく次にソフトウェアによる大きな革新に直面することになるでしょう。 今日、自動車はすでに大部分がコンピュータによって制御されていますが、近い将来、自動車の価値はその自律性によって決まることになるでしょう。 この変化を推進しているのがTeslaであり、彼らは、AppleがPCやスマートフォン業界に起こしたような変化を自動車業界にもたらそうとしています。 彼らは自動車製品とバリューチェーンのあらゆる要素を完全に革新しています。すなわち、ハードウェア(電動化)、ソフトウェア(自律性)、ビジネスモデル(消費者への直接販売)、製造(ギガプレス)です。しかし、最も重要なのは、Teslaが最近発表したロボットタクシーです。これは「車を所有することの意味」を根本から大きく変えるもので、Teslaの主な収益源をハードウェアの販売からソフトウェアドリブンのモビリティ消費とサブスクリプションサービスへとシフトさせることになります。Teslaがその野望を実現できるかどうかは不明です。 しかし、CEOのイーロン・マスク氏は、このビジョンを実現するために、同社が持つすべてのリソースを投入しています。その中には、自律走行アルゴリズムのトレーニング用に10万個のNVIDIA H200 GPUを搭載した世界最大のスーパーコンピューターを構築することも含まれています。今のところ、市場は成功を信じているようです。それは株価に表れています。Teslaは自動車メーカーの収益ランキングでは12位に過ぎませんが、時価総額はトップです。

自動車メーカーの売上高:

自動車メーカーの時価総額:

ハードウェア(モノ)とソフトウェア(デジタル)の融合

ハードウェアとソフトウェアの融合は至る所で起こっています。

  • 長距離トラック(Aurora Innovation: ペンシルベニア州ピッツバーグ)
  • 医療機器(Intuitive Surgical: カリフォルニア州サニーベール)
  • メンテナンスロボット(Gecko Robotics: ペンシルベニア州ピッツバーグ)
  • 人型ロボット(Tesla: カリフォルニア州、Boston Dynamics: ボストン、Agility Robotic など)
  • モジュール式マイクロ工場(BrightMachines: カリフォルニア州サンフランシスコ)
  • 物流/倉庫の自動化(Symbotic: マサチューセッツ州ウィルミントン)
  • 航空宇宙(SpaceX: カリフォルニア州ホーソン)
  • 防衛技術(Anduril: カリフォルニア州コスタメサ)
  • 腕時計(Apple Watch: カリフォルニア州クパチーノ)
  • GPU/CPU(NVIDIA: カリフォルニア州サンタクララ)

最後の2つの例について詳しく見てみましょう。

  • Apple Watchは、発売から10年も経っていないにもかかわらず、現在、世界で最も売れている腕時計です。Apple Watchは、何と言っても、腕時計にソフトウェアをもたらしたことで、時間を知らせるだけでなく、睡眠、心拍数、運動量、消費カロリーを計測したり、電話をしたり、テキストメッセージを送ったり、株価をチェックしたりなど、さまざまなことができます。ソフトウェアによって、その価値提供は大幅に拡大しました。
  • NVIDIAは、GPUだけでなく、AIに最適化されたまったく新しいコンピューティングプラットフォームを開発したことで、まもなく世界で最も価値のある企業となるでしょう。 GPUが収益と販売を牽引している一方で、同社独自のソフトウェアプラットフォームであるCUDA(Compute Unified Device Architecture)は、顧客が大規模なAIインフラストラクチャやアプリケーションを開発し、実行するのをサポートすることで、非常に価値のある、強固なエコシステムを構築しています。たとえ競合他社がより優れたGPUを開発できたとしても、ほとんどのAIシステムがCUDAやNVIDIA独自のソフトウェア(開発ツール、ネットワーク、サイバーセキュリティなど)で構築されているため、NVIDIAからシェアを大幅に奪えることはないでしょう。

つまり、日本は多くのディープテック、ハードウェア、そして「モノ」関連ビジネスにおいて最高の技術を有していますが、これらの分野の一部(すべてではありません)には、人工知能、ソフトウェア、新しいデジタルユーザー体験による変革の波が来ており、自動車市場と同様に、ソフトウェアとAIの台頭は、前例のない機会と同時に存続の危機をもたらしています。日本はすでに多くのハードウェア市場で優位に立っているため、戦うための強固な足がかりを得ています。優れたハードウェアは、設計が非常に難しく、さらに、それらの大規模な製造はより困難であるからです。したがって、革新的な破壊的イノベーションの機会には、ソフトウェア企業とハードウェア企業の双方が含まれるかもしれませんが、日本にとって最も大きなチャンスは、この2つの組み合わせにあります。

より明確に言えば、それはすでに製造しているハードウェアに付加価値を加えることです。 もちろん、日本の企業はすでに産業用ロボット(ファナック、三菱重工業、三菱電機、安川電機など)、自動車(トヨタ)、医療機器、画像処理などの市場で多くの取り組みを行っていますが、日本企業にとって、ソフトウェアとハードウェア(既存のものと新しいものの両方)を組み合わせることで、ハードウェア製品に追加機能を提供するだけでなく、さらにその先を行き、まったく新しいビジネスモデルを実現し、まったく新しいエコシステムを構築するチャンスは、他にも数多くあるはずです。 その分かりやすい例としては、自律走行型ライドシェア(新しいビジネスモデル)やiPhoneのApp Store(新しいエコシステム)が挙げられますが、起業家が実現するのを待っている、まだ発見されていない同様のイノベーションが数えきれないほどあります。

世界で日本のユニコーン企業が求められるワケ

実のところ、世界は日本の次世代グローバルユニコーン企業を待ち望んでいます。世界中の消費者や企業は、日本製品を買いたいと思っています。アメリカ、アジア、ヨーロッパ、アフリカ、中東では、日本製品は品質と信頼性を象徴しています。世界中から日本への旅行者が絶えないのはなぜでしょうか?それは、安全で清潔であること、素晴らしい食文化、深い文化、近代的な交通・通信インフラ、そして2024年現在においては、それだけでなく、物価が安いからです。 そして、どの国も、礼儀正しく、法律を遵守する日本人観光客を迎え入れたいと考えています。ワールドカップでは、日本のファンは熱狂的な応援で有名ですが、マナーも良く、スタジアムを去る前に自分や他人のゴミを拾うことでも有名になりました。さらに、野茂、松井、イチロー、大谷選手は、アメリカ野球界では伝説的な存在です。つまり、おそらく日本は地球上で最高のブランドを保有していて、誰もが日本がイノベーションで復活することを待ち望んでいるのではないでしょうか。

しかし、それはまだ実現していません。今日も、Spiber、京都フュージョニアリング、楽天シンフォニー、Sakana.aiなど、世界的に革新をもたらす可能性を秘めたイノベーションが日本から生まれています。もちろん、水素エネルギー分野でも多くのイノベーションが生まれています。これらのイノベーションの一部は、スタートアップ企業によって、また一部はデジタルネイティブ企業によって、そして一部は既存の大企業によって開発されています。しかし、いずれも実行に移すことができれば、世界的な革新をもたらし、素晴らしいグローバル企業へと成長する可能性を秘めています。 その中でもスタートアップ企業については、今後5年間でスタートアップ企業数を10倍に増やすという目標を掲げる日本政府からサポートを受けています。彼ら(日本政府)はエンジェル投資家やベンチャーキャピタルからの投資を奨励するために多くのことを行なっており、これは重要な第一歩です。

ですが、現在進行中のイノベーションの物語の主役は投資家ではなく、起業家です。 そして、日本はまだ、この予測不可能で型破りな変革者たちを正しく認識し、受け入れるに至っていません。真の革新的なイノベーションの真実とは、主流から外れたところで活動する個人や小規模なチーム(イーロン・マスク、トラビス・カラニック、マーク・ザッカーバーグ、ビル・ゲイツ、三木谷浩史のような起業家)がもたらすことが最も多いという事実です。日本は投資を活性化させるという点では進歩を遂げていますが、起業家を支援するためには、まだできることが多く、すべきこともたくさんあります。しかしそこには、起業家の可能性を最大限に引き出すことを妨げる政策として現れるような深刻な文化的課題があります。この課題については、次回の記事のテーマにしたいと思います。どうぞお楽しみに!

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